ステージを降りた後。
久保時渡は灰原優歌が去っていく後ろ姿を見つめ、唇の端のゆるい弧が消えた。元々無関心で怠惰な目元は、人を寄せ付けない冷たさを漂わせていた。
「渡様?」
駆けつけた曽田旭が、おそるおそる声をかけた。
「調べろ。分からなければ、お前の首が飛ぶぞ」
久保時渡は紙切れを隣のテーブルに置き、冷たい声で言った。
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、柴田裕也が近づいてきた。
「渡様、お話があります」
柴田裕也は深刻な表情を浮かべていた。
久保時渡はゆっくりと彼を一瞥し、曽田旭に「先に調べに行け」と言った。
「はい」
曽田旭が去った後、柴田裕也はその場に自分と久保時渡しかいないのを確認すると、歯を食いしばって尋ねた。
「妹のことが気になっているんですか?」
久保時渡は逆に口元を緩め、少しも動揺した様子もなく、相変わらず軽い口調で「なぜそう思う?」と返した。