第549章 クソ男は故意にやった

彼女が目を上げると、男の瞳の奥に欲望が渦巻いているのが見えた。

指先が男の長く整った指にさりげなく握られ、彼は唇の端をかすかに上げて「お兄さんがあげるよ」と言った。

灰原優歌が反応する間もなく、彼女の手は男の引き締まった腹部に置かれた。

その瞬間、心の準備ができていなかった灰原優歌は体が固まってしまった。

毎朝久保時渡が運動しているのを見ているだけに、この引き締まった腹筋は、服を着ている時の知的で優雅な姿とは大きく異なっていた。

薄い生地越しでも、灰原優歌は心臓が早鐘を打つのを感じた。

男が身を屈めて、近すぎるほどの距離で、彼の笑い声が低くかつ魅惑的に響き、彼女の耳を熱くさせた。

「これで十分かな、優歌?」

灰原優歌:「……」

なぜこの男は何を言っても、人の道から外れているような感じがするのだろう?