第585章 面子を保って出て行けという警告(補3)

「この酒を飲んだら、あなたの友達を解放してあげるわ」

その男は鈴木遥を露骨な視線で見つめ、欲望を隠そうともしなかった。

この光景を、多くの人が目にしていた。

しかし、この二人のウェイトレスを助けようと思った人々も、向かい側に座っている黒いシルクシャツを着て、巻き毛を半分まとめた美男子を見た途端、その考えを打ち消した。

それは福永健仁だった。

福永集団の皇太子である。

「面子を立ててくださいよ、鈴木さん。もしかして、あなたと友達はここで働き続けたくないのかな?」

男は悪意に満ちた笑みを浮かべて言った。

鈴木遥の名札には偽名が書かれていたにもかかわらず、彼は「鈴木さん」と呼んでいた。

明らかに、旧知の仲だった。

鈴木遥は唇を噛み、福永健仁の視線も感じながら、軽く唇の端を引き攣らせた。