彼女は彼の行くところならどこへでも付いて行きたがったのに、今日は彼と一緒に帰りたくないと思っている。これは明らかに何か問題があるに違いない。
「おじいちゃん、私はただもう少しあなたと一緒にいたいだけです」海野桜は落ち着いた様子で言った。
浜田統介は彼女を残すことを望まなかった。「今日は一日中おじいちゃんと過ごしてくれて、もう十分嬉しいよ。裕と一緒に帰りなさい。また今度おじいちゃんに会いに来ればいい」
「...わかりました。おじいちゃん、お体に気をつけてください。また来ます」海野桜は仕方なく妥協した。
これ以上主張すれば、おじいちゃんがもっと心配してしまうだろう。
それに、一生帰らないわけにもいかない。離婚するまでは、彼と同じ屋根の下で我慢して暮らすしかないのだ。
浜田統介は頷き、東山裕に言い聞かせた。「裕、桜はまだ若いから、分からないことがあったら少し大目に見てやってくれ」
東山裕は老人を非常に尊敬していた。彼は以前、軍隊で数年間訓練を受けていた。
当時、老人は彼に多くの助言と指導をしてくれた。
彼が海野桜に対して寛容なのも、老人の面子を立てているからだった。
今、老人が直接彼に頼んでいるのだから、断るわけにはいかない。同時に、海野桜が老人に何か言いつけたに違いないと確信した。
しかし、彼は表情に何も表さなかった。
「おじいちゃん、ご心配なく。私にはわかっています」
「よろしい、私は君を信じているよ」浜田統介は慈愛に満ちた笑みを浮かべた。「君たち二人とも良い子だ。おじいちゃんは君たちがうまくやっていけると信じている。他には何も言わないが、とにかくおじいちゃんは君たちを信じているよ。早く帰りなさい。桜も裕のことを思いやって、妻としての務めを果たすように」
海野桜も渋々頷いた。「わかりました、おじいちゃん」
わかるものか、東山裕と離婚したいだけなのに!
...
おじいちゃんと別れ、海野桜と東山裕は屋敷を出た。
彼女が東山裕の車に乗り込み、門を出るや否や、彼の冷たい嘲笑が聞こえてきた。
「海野桜、本当に知りたいよ。いつになったら策略を弄するのをやめるんだ!」
「...」
海野桜は彼の冷たい横顔を見て、すぐに彼の意図を理解した。
「私がおじいちゃんに何か言ったと思っているの?」
男は冷ややかに彼女を一瞥し、嘲笑的な笑みを浮かべた。「何を言ったかは、お前自身がよく分かっているはずだ!」
何も言っていないのに、老人がわざわざ彼を呼んで食事をし、特別に海野桜に優しくするように言い聞かせるだろうか?
彼が最も嫌うのは彼女のこの点だった。まるで厄介な存在のように、毎日彼を支配下に置こうと画策している。
いや、彼が最も嫌うのは、彼女を心から嫌っているのに、彼女の存在を我慢し続けなければならないことだ。
一言で言えば、彼女の存在が彼の尊厳を著しく傷つけているのだ!
海野桜は彼の冷たい嫌悪感を感じ取ることができたが、もう慣れていたし、どうでもよくなっていた。
「好きに思えばいいわ。どうせいつかはあなたと離婚するんだから!」断固とした口調でそう言うと、海野桜は窓の外に目を向け、もう彼を相手にしないことにした。
東山裕は冷笑した。その言葉は本来、彼が言うべきものだった。
いつかは必ず彼女と離婚してやる!
二人は一言も交わさず、気まずい雰囲気のまま家に帰り着いた。
海野桜は車を降りると、振り返ることもなく別荘に入り、階段を上がって寝室へ向かった。
日中、彼女はすでに張本家政婦に新しい部屋を用意してもらっていた。もう東山裕と同じ部屋で寝ることはない。
どうせ彼も彼女と同じ部屋に住みたくないのだから、これは彼の望みを叶えてやることになる。
東山裕は先にシャワーを浮かべ、その後書斎で仕事をする習慣があった。
主寝室に入ると、部屋の様子が普段と違うことに気づいた。