第38章 彼に愛情弁当を届ける

「……なくなってしまったの。人からもらったものだから、今度また手に入ったらあげるわ」と鴻野美鈴は淡々と言った。

「ああ」海野桜は彼女の急な気分の変化を察して、それ以上何も言えなかった。

朝食を済ませると、鴻野美鈴はこっそりと使用人たちに、海野桜と東山裕の最近の関係について尋ねた。

得られた答えは全て同じだった——二人の関係は良くないと。

東山裕は相変わらず海野桜に冷淡で、海野桜も変わったようで、もう東山裕の周りを行ったり来たりしなくなった。

しかも東山裕はめったに家で寝ることもなく、最近では二人は別々の部屋で寝るようになっていた。

鴻野美鈴は直ちに事態の深刻さを悟った。

海野桜まで変わってしまったということは、この二人の結婚は危機に瀕しているということだ。

それも非常に深刻な危機!

そうでなければ、昨夜東山裕が一晩我慢して海野桜に触れなかったはずがない。

……

昼時、鴻野美鈴は自ら台所に立ち、東山裕の好きな料理を数品作り、海野桜に愛情弁当として届けさせた。

海野桜は行きたくなかったが、断る理由がなかった。

鴻野美鈴が言うには、これは彼女が手作りしたもので、息子に自分の手料理を食べてほしいから、海野桜が必ず届けなければならないと。

しかも海野桜は東山裕を好きなふりをしなければならず、なおさら断る口実がなかった。

というのも、以前の海野桜なら東山裕と接触できるどんな機会も断らなかったはずだから!

とにかく今は義母に言われたことは何でもやるしかない。

でも届けるなら届けるで、別に構わない。

運転手が車で海野桜を「東山」本社まで送った。

車を降りると、彼女はサングラスをかけてそのままエレベーターに向かった。

東山裕の会社は彼女にとってあまりにも馴染みがあった。前世では何度も来ていたので、道を尋ねる必要もなく、自分で場所を見つけることができた。

人目を引かないように、社長専用エレベーターではなく、一般用エレベーターを使った。

ただし50階までしか行けず、そこで降りてから別のエレベーターに乗り換えて最上階に行く必要があった。

最初、エレベーターの中には海野桜一人だけだったが、途中で女性社員が2人乗ってきた。

彼女たちは海野桜のことを知らず、自分たちだけで話をしていた。