「つまり、今年は5倍になったということですか?」
「はい」
「受賞枠は何名ですか?」
「枠は5つありますが、必ずしも全ての枠が埋まるとは限りません」
「どういう意味ですか?」海野桜は理解できなかった。
山田大川は笑いながら説明した。「つまり、上位5名が自動的に受賞できるわけではなく、設計された作品が社長の承認を得なければ受賞できないということです。社長が承認しなければ、誰も受賞できません」
こんなに厳しいなら、賞金が高額なのも納得だ。
「なぜ今回の賞金は特別に多いんですか?」海野桜は更に興味深そうに尋ねた。
東山裕は顔を上げて彼女を一瞥した。彼女の質問は多すぎるのではないか?
しかし海野桜は彼の視線に全く気付いていなかった。
山田大川は答えた。「会社が今年ニューヨークのプロジェクトの入札に参加するからです。これは我が社にとって非常に重要なプロジェクトなんです」
海野桜は愕然とした——
思い出したような気がした。
前世の今年、東山裕はニューヨークに出張に行き、長期間滞在していた。
彼は林馨も一緒に連れて行った。
最初は知らなかったが、後になって彼らがニューヨークで入札に成功し、東山裕が主任設計者として設計した建築物が高い評価と賞賛を受け、メディアで大々的に報道されて初めて知ったのだ。
報道には今回の設計に参加したスタッフの名簿が掲載されており、その中に林馨の名前もあった。
それを知った後、彼女は当然また東山裕と大喧嘩をした。
海野桜は前世の経験を思い出したくなかったが、東山裕と林馨は本当に相性がいいと感じずにはいられなかった。
二人とも才能があふれているのに、自分はダメダメだ。
だから早く離婚した方がいい。彼らを見るたびに気が滅入るのは避けたい。
海野桜はもう質問せず、黙々と食事を続けた。
東山裕は既に食事を終えており、箸を置いて山田大川に指示した。「下がっていいぞ」
「はい」山田大川は頷き、恭しく退室した。オフィスには二人だけが残された。
海野桜も箸を置いた。「私も食べ終わりました。すぐに出ていきますので、お仕事の邪魔はしません」
彼女は顔を上げることなく片付けを始め、彼を一目も見なかった。
東山裕は本革のソファにだらりと寄りかかり、審査するような目で「私に不満があるようだな」と言った。