「急いで」東山裕の冷たい声が彼女の思考を遮った。
海野桜はわざと困った表情を作って、「選ぶのが難しいわ。本当に全部欲しいくらい」
東山裕は何も言わず、財布からカードを取り出して店員に渡した。「全部包んでください!」
店員は目が笑みで細くなって、「かしこまりました。すぐに包装させていただきます!」
海野桜:「……」
彼女はただ彼を試すためにわざとそう言っただけだったのに、本当に全部買ってくれるなんて。
でも、この程度のお金は彼にとって大したことではない。
彼が散財してくれるなら、彼女も文句はない!
東山裕は立ち上がり、ドレスを一着選んで彼女に渡した。「着替えてきなさい」
海野桜は断らず、ドレスを受け取って試着室へ向かった。
試着室に入ると、ソファに座ってドレスのタグを確認した——なんと25,000円もする!
東山裕は彼女のことが好きではないから、当然お金を使わせたくないのだ。けちだからではなく、本当に彼女にお金を使いたくないからだ。
毎月決まって2万円のお小遣いしか渡してくれない。
何か買い物をする時は帳簿をつけなければならず、月の支出は20万円を超えてはいけないと決められている。
海野桜は純粋に彼のことが好きなだけで、彼のお金目当てではなかった。
これまで、彼からもらったお金はほとんど使わず、必要な物は全て祖父にお願いしていた。
前世では彼は何一つ彼女にプレゼントしてくれなかった。
今日は……こんなにたくさんの服を買ってくれて、一度に数十万円も使ってくれた。
海野桜は皮肉めいた笑みを浮かべた。
東山裕は一体何がしたいのか、なぜ突然彼女への態度が変わったのか?
でも、彼が彼女のことを好きになったなんて、死んでも信じられない。
唯一の説明は、気まぐれだということ。でも、それは何も意味しない。
……
海野桜が試着室に入ってからずいぶん経つのに、まだ出てこない。
東山裕は待ちきれずにドアをノックした。「まだか?」
「ちょっと待って……」海野桜は心の中で呪った。どうして不注意で髪の毛がファスナーに絡まってしまったのか。
ファスナーは背中にあり、どれだけ苦労しても髪を抜き出すことができなかった。
「店員さんを呼んでもらえませんか」海野桜は仕方なく声を上げた。
試着室のドアが開き、東山裕の大きな体が入ってきた。