第53章 私にあなたを恋させたい

海野桜は車のドアを開けようとした。

男が突然身を乗り出してきて、彼女は驚いて背もたれに身を押し付け、できるだけ距離を取ろうとした。

しかし、彼は単に彼女のシートベルトを締めてくれただけだった……

締め終わった後も、東山裕は元の位置に戻らず、まだ彼女のすぐ近くにいた。

彼は意地悪そうに彼女を見つめて、「海野桜、お前はいつもこうだな。何かして欲しいと暗示してるのか？」

海野桜は笑いを漏らした。「そうよ、暗示してるわ。早く何かしてよ」

東山裕は瞳を暗くして、「何をして欲しい？」

「私を愛してよ。あなたに私に恋をして欲しいの。それも狂おしいほどに！」海野桜は挑発的に彼を見つめた。「あなたが私に恋をした時、私はあなたを酷く振って、拒絶してやるわ！」

東山裕は黒い瞳を光らせ、軽く笑った。「俺に対してかなりの恨みを持ってるようだな」

「まあね」そうでなければ、彼女が生まれ変わることもなかったはず。きっと死んでも心残りだったに違いない！

東山裕は突然彼女の顎を掴み、邪悪な声音で囁いた。「おそらく今生では、お前の恨みは晴らせないだろうな」

「……」海野桜の目が揺れた。

彼の言葉の意味は、今生では彼は彼女に恋することはなく、彼を拒絶する機会も与えないということ？

海野桜は淡く笑った。「それが一番いいわ。私に恋なんてしないでよ。さもないと痛い目に遭うわよ！」

彼女の脅しと警告は、東山裕には少しも迫力がないように聞こえた。

彼は彼女を子供の強がりとしか思っておらず、真に受ける必要もないと考えていた。

気にも留めず軽く笑うと、彼は彼女から手を放し、姿勢を正して、そのまま車を発進させた。

……

東山裕は海野桜を近くの繁華な商店街に連れて行った。

車はシャネルの専門店の前で止まった。

シートベルトを外し、彼は彼女を一瞥して、「ついて来い！」

海野桜は不思議に思った。彼は何のために彼女をここに連れてきたのだろう？服を買うため？

案の定、豪華な専門店に入ると、東山裕は彼女に服を選ばせた。

「好きなものを選べ。10分やる」東山裕は本革のソファにだらしなく座り、無造作に言った。

海野桜は不思議そうに彼を見た。「私を連れ出したのは、ただ服を買わせるため？」

男は眉を上げた。「他に何だと思った？林馨が買ったものを着たくないなら、自分で選べばいい」