第52章 社長に相応しくない女

今回は彼女が面倒を起こさなかったのは、社長に抑えられたからでしょう……

林馨は信じていた。海野桜の短気な性格からすれば、必ず騒ぎを起こすはずだと。

彼女も知っていた。社長はそういう態度が大嫌いだということを。

海野桜が彼女に絡むたびに、社長は必ず彼女を気にかけてくれた。

でも最近は、何をしても社長は彼女に関心を示さなくなったみたい。

まるで彼女の存在を忘れてしまったかのように。

彼女が彼を救ったのに、何の反応もなく、怪我をしながら一生懸命働いても、やはり何の反応もなかった。

今日、突然彼に近づけるチャンスができて、つい何かしたくなってしまった。

ついでに海野桜を刺激して、彼女が面倒を起こしに来るのを待って、そうすれば社長がまた自分に注目してくれるはず。

だから、わざと服を買うのを手伝い、わざと財布を袋の中に忘れたふりをした。

この時間に上がれば、海野桜は社長に追い払われているはずで、海野桜が彼女の買った服を嫌がることを口実に、社長ともう少し話せると思った。

でも、二人とも行ってしまっていた。

林馨は勝手に、海野桜が帰りたくなくて彼女に絡みに行こうとしたから、社長が許さず、無理やり連れて行ったのだと思い込んでいた。

そう考えると、林馨の心は少し甘くなり、同時に罪悪感も感じた。

実は彼女は社長と奥様の夫婦関係を壊したくはなかった。

でも海野桜は全く社長に相応しくない、わがままで野蛮で、社長は全く彼女のことを好きではない、彼らの夫婦関係は正常ではない。

それに、もともと離婚するはずだったし、彼らの関係はそう長く続かないはず。

だから彼女のこの行動は、少し間違っているかもしれないけど、大きな過ちではない。だって社長はもともと海野桜のことが好きではないし、彼らはもともと離婚するはずだったから。

それに最近、社長が彼女に関心を示さなくなって、心が寂しかった。

彼との距離が開いていく感じに耐えられなかった……

彼に近づきたい、とても近づきたかった。

だから今日は、つい抑えきれずにしてはいけないことをしてしまった。

でも、社長の注目を得られるなら、これくらいの代償は安いものだ。

それに、そんなに悪いことをしたわけでもない……

林馨はそう考えると、もはや自分が間違っているとは思えなくなった。