第51章 喧嘩しているようだ

海野桜は悲鳴を上げ、両手を乱暴に振り回した。「この変態！触らないで、出て行って、触らないでよ！」

東山裕は頭痛を感じながら彼女の攻撃を避け、素早く彼女の両手首を掴んだ。

「この野郎、離して！」海野桜は彼が何かしようとしていると思い、さらに恐怖で叫んだ。

「黙れ！」男は鋭く低く吠えた。

海野桜はようやく静かになったが、まだ不安そうに彼を見つめた。「もう一度警告するわ。私に触れないで！」

東山裕は彼女が強がっている様子を見て、なぜか笑いたくなった。

普段は何も恐れないように見えた彼女が、こんなに臆病な時もあるとは思わなかった。

しかし、彼女が自分の接触をこれほど嫌がることに、やはり不愉快を感じた！

「触るわけないだろう！」軽蔑的に冷笑し、彼は彼女を引っ張って外へ向かった。

海野桜は引っ張られてよろめいた。「何するの？」

東山裕は答えず、彼女を引っ張って扉を開け、外に出た。

彼の力は強く、海野桜はどうしても振り解けず、体も簡単に引きずられていった。

「一体何をするつもり？」道中、海野桜は疑問を抱き続けた。

「着いたら分かる！」東山裕は冷たく答え、彼女を自分専用のエレベーターに引っ張り込んだ。

彼らのエレベーターのドアが閉まるや否や、もう一つのエレベーターのドアが開き、林馨が中から出てきた。

彼女は誤ってコーヒーを海野桜にこぼしてしまった木村秘書の前に行き、小声で尋ねた。「木村秘書、社長と奥様はまだ中にいらっしゃいますか？」

実は彼女は、海野桜が帰ったかどうかを知りたかったのだ。

木村秘書は不思議そうに答えた。「社長と奥様は今出られたところです。何かご用でしょうか？」

「出たの？」林馨は驚いた。

「はい、社長が奥様をお連れになって、どちらかへ行かれました。林課長、何かご用件でしょうか？」

林馨は笑って言った。「財布を社長室に置き忘れてしまったみたいで。」

「そうですか、お探ししましょう。」木村秘書は彼女を中に案内した。「どこに置かれましたか？」

林馨はソファーの上の衣装バッグを見つけて手に取った。「バッグの中です。奥様の服を買って、そのまま中に入れたまま、取り出すのを忘れてしまいました。」

木村秘書は笑って言った。「今日はありがとうございました。あなたがいなければ、私一人では手が回らなかったと思います。」