第49章 東山様、手を放してください

東山裕は不機嫌そうに眉をひそめた。「着替えろと言っているんだ」

「結構です」テーブルの上のバッグを手に取り、彼女は立ち去ろうとした。

東山裕は突然立ち上がって彼女の手首を掴んだ。「もう一度言う。着替えろ」

海野桜は可笑しそうに彼を見た。「着替えないって言ってるでしょう？分からないの？」

彼の手を振り払って歩き出そうとした時、突然彼の叱責が聞こえた。「海野桜、何を頑固になってるんだ？私の社員が苦労して服を買ってきたんだ。着替えろと言われたら着替えればいい。何を我儘を言ってるんだ？！」

海野桜は足を止めた。

着替えろと言うのは、林馨の苦労を無駄にしたくないからなのか。

そうか、だから彼女の見た目をそんなに気にしていたのか。

海野桜は振り返って冷笑した。「私が我儘？あなたが余計な口出しをし過ぎなんでしょ！着たくないものは着たくないの。放っておいて！」

東山裕の表情が凍りついた。「海野桜、その態度は何だ！」

「あなたが思うような態度でいいでしょう！」海野桜は再び歩き出そうとした。

東山裕の声が急に鋭くなった。「そこで止まれ——」

彼は数歩で彼女の側まで来ると、強く彼女の体を引っ張り、鋭い目で見つめた。「海野桜、恩を仇で返すな！服を買ってきたのに、見向きもしないなんて。人の好意を踏みにじるのが好きなのか？！」

東山裕は実際には自分の好意について言っていたのだが、海野桜は林馨のことを言っていると理解してしまった。

この人生で、海野桜は林馨と敵対するつもりはもうなかった。

しかしそれは、過去の恨みを忘れてその女性を好きになったり、その好意を受け入れたりすることを意味しない。

彼女はまだその女性が気に入らない。だから彼女が買った服も、当然着るつもりはない。

とにかく着ない！

海野桜は怒らずに、嘲るように言った。「そんな好意なんて要りません。誰が買ったのか知らないけど、その人に着せればいいでしょう。とにかく私は着ません。何を言われても着ません！」

東山裕は眉をひそめ、すぐに彼女が何にこだわっているのか理解した。

「林馨が買ったから、着たくないのか？」

「そう、彼女が買ったものだから着ません！」海野桜は素直に認めた。

東山裕は深い眼差しで彼女を見つめた。彼女はまだ林馨の存在を気にしているようだ。