第61章 東山裕を忘れた

あの時、彼は相良おじいさんと同じように、心に掛かる孫娘に会えないまま死んでしまうことを恐れていたのでしょう。

だから当時のおじいさんは、心残りを抱えたまま旅立ったのです……

でも幸い、彼女にはやり直すチャンスがあり、今生はおじいさんに孝行を尽くし、穏やかな老後を過ごしてもらえます。

しかし相良おじいさんが心残りを抱えたまま旅立ってしまえば、二度目のチャンスはないのです。

海野桜は、相良剛が現れて、相良おじいさんが安心して旅立てることを切に願っていました。

でもこんな時になって、相良剛は本当に現れるのでしょうか?

海野桜がそう考えていると、突然重くて急ぎ足の足音が聞こえてきました。

振り向くと、涙で曇った目の中に、迷彩服を着た、体格の良い威厳のある男性がこちらに向かって歩いてくるのが見えました。

海野桜は目を見開き、とても信じられない思いでした。

すぐに、その人の顔立ちがはっきりと見えてきました。それは凛とした厳しい顔で、かすかに相良おじいさんの面影がありました。

海野桜は思わず喜びで口を押さえました!

相良剛が本当に現れたのです!

相良剛は複雑な表情で彼女を一瞥し、何も言わずに病室に入りました。

海野桜は、彼がベッドの側に駆け寄り、老人の手を握りしめるのを見ました……

そして彼の赤くなった目から、涙が流れ出るのも見ました。

海野桜は安堵して壁に寄りかかり、かすかに微笑みました。

相良おじいさんは旅立とうとしていましたが、孫に会うことができ、最後の対面を果たすことができたのです。

そして相良剛が現れてからまもなく、相良おじいさんは心残りなく旅立ちました。

その後、海野桜と浜田統介は相良おじいさんの葬儀に参列し、福岡市に戻りました。

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二週間以上も帰っていませんでした。

海野桜は飛行機から降りた瞬間、少し恍惚としました。

この期間、彼女は東山裕の存在を忘れていたような気がします。これは12歳以来、初めて彼の存在を忘れた時間だったかもしれません。

海野桜は明るい空を見上げ、思わず笑みがこぼれました。

彼のことを忘れている感覚が、本当に心地よかったから……

彼女の世界は、もう彼を中心に回るのではなく、自分自身を中心に回るようになったのです。