しかし、東山裕は何故か嬉しくなれなかった。
海野桜が跳ねながら歩く後ろ姿を見つめ、思わず冷笑してしまう!
彼は完全に狂ってしまったに違いない。さっきの一瞬、彼女と離婚したくないなんて思ってしまうなんて!
彼らがどうして離婚しないことがあろうか。
これは彼女から逃れるための絶好の機会なのに……
東山裕の目の奥に冷たい光が走り、暗い表情で立ち去った。
張本家政婦が衣類の整理を終えたところで、海野桜が鼻歌を歌いながら寝室に入ってきた。
彼女は面白そうに尋ねた。「お嬢様、何か良いことでもあったのですか?こんなにご機嫌なようで」
海野桜は優雅にくるりと回転し、満面の笑みで尋ねた。「張本さん、私が学校に戻って勉強するのはどうかしら?」
張本家政婦は驚いた。「勉強ですって?お嬢様は勉強が嫌いだったはずでは?」
海野桜は少し心虚そうに言った。「今は勉強も悪くないなって思うの……」
「そうですか?」張本家政婦は不思議そうだった。「お嬢様が勉強したいと思われるのは良いことです。老御主人様もきっと喜ばれますよ」
海野桜はベッドの端に座って足をぶらぶらさせながら、「何を勉強したらいいかしら?」
「お嬢様は何がお好みですか?」
「……わからない」
「何に興味がおありですか?」
海野桜はまた首を振った。「わからない」
その瞬間、彼女は事態の深刻さに気付いた。何にも興味がないのだ。
何も学びたくない……
この人生で自分は駄目人間になる運命なのだろうか?
海野桜は焦り始めた。「張本さん、どうしましょう。私、何にも興味がないの。どうしてこんなになっちゃったの?!」
張本家政婦はわざとからかうように言った。「お嬢様に興味がないわけがありません。ちゃんとありますよ」
「あるの?何?」彼女には思い当たらなかった。
「お嬢様の最大の興味と言えば、旦那様ではありませんか?」張本家政婦は含みのある口調で言った。
海野桜:「……」
張本家政婦は過去のことを思い出して、はははと笑った。「あの時のお嬢様と老御主人様のやり取りを、今でも覚えていますよ。お嬢様が『旦那様こそが私の人生最大の追求です』って……」
海野桜も瞬時に祖父との会話を思い出した。
【勉強もしないでどうするの?将来何になるの?】
【東山裕の妻になるわ】