「そのまま進め、気にするな」東山裕は冷たく言った。
「でも……」
「そのまま通れ!」東山裕はまばたきもせずに命じた。
運転手は怖がっていたが、そう命じられたので、覚悟を決めて進むしかなかった。
彼らの車は直接通り過ぎ、幸い巻き込まれることはなかった。
海野桜が振り返ると、ちょうどQを運転していた男が車から出てくるところだった。
もし彼女の記憶が間違っていなければ、その人物は相良剛のはずだった。
なぜ彼がここにいるの?
任務を遂行中なのかしら?
海野桜が相良剛を見ている時、東山裕も彼を目にしていた。
彼の目には、誰にも分からない複雑な表情が一瞬よぎった。
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海野桜たちが空港に到着した時、他のメンバーはすでに到着していた。
東山裕は今回、特別補佐1名、秘書2名、会社のエリート5名、そしてボディーガード10名を同行させた。
海野桜を含めて、総勢20名だった。
しかし、林馨の姿はなかった。
海野桜は不思議に思った。なぜ林馨がいないの?
前世では、東山裕は確かに彼女を連れて行ったはずなのに。
海野桜はハッと気付いた。おそらく今世では、林馨が秘書総監の地位を解任されたため、一緒に行けないのだろう。
前世では彼女は東山裕の首席秘書だったから、当然、東山裕がどこへ行くにも同行していた。
今世では首席秘書になれなかったため、東山裕と一緒にいる機会が大幅に減ってしまった。
それなら、二人はまだ結ばれるのだろうか?
もしかして、自分が知らず知らずのうちに、二人の仲を引き裂いてしまったのかもしれない?
まあいい、二人が結ばれようが結ばれまいが、東山裕が離婚してくれさえすればいい。
海野桜が考え事をしているうちに、みんなが搭乗手続きに向かっているのに気付かなかった。
東山裕が突然彼女の手首を掴んだ。「海野桜、何をぼんやりしている。出発するぞ!」
「え?」海野桜が我に返った時には、すでに彼に引っ張られて保安検査場へ向かっていた。
ファーストクラスに乗り込んで初めて、海野桜は東山裕の太っ腹ぶりを知った。
ファーストクラス全体が彼によって貸し切られており、乗客は彼らの20名だけだった。
彼女と東山裕は最前列の最も快適な座席に座った。