第79章 彼が先に手を出した……

海野桜は無邪気な表情を作って言った。「誰が下劣かって?下劣な人に向かって言ってるだけよ。あなたに言ったわけじゃないから、自分のことだと思わないで」

明らかに彼のことを言っているのに!

ふん、下劣なおじさんだって……

彼女に何かしたとしても、当然の報いだ!

それに、おじさんって何だ?

彼はまだ25歳なのに!

東山裕は怒るどころか笑みを浮かべた。「未成年なのに下劣な女の子の方が、よっぽど恥ずべきだと思うがな!」

「あなたなんて……」海野桜は恥ずかしさと怒りで顔を赤らめた。

若気の至りで彼にしつこく付きまとっただけじゃない。

どこが下劣なのよ?!

海野桜はパンを一口かじり、冷笑しながら言った。「私は少なくとも愛する勇気も憎む勇気もある。陰で下劣なことをする偽善者よりずっとマシよ。しかも19歳の女の子に手を出すなんて、考えただけでも恐ろしい!」

「その19歳の女の子は、12歳の時から今は下劣だと言っているおじさんと結婚したがってた。18歳で彼のベッドに入ったんだぞ!」

「あなたが先に誘惑したのよ!」海野桜は怒って反論した。

東山裕は一瞬固まった。「何だって?」

海野桜は目を見開いて言った。「あなたが先にそうしたのよ!」

「つまり、俺が酔って君に手を出したって言いたいのか?」東山裕は冷笑しながら問い返した。

「そう、あなたが先に手を出したの」

「ふん……笑わせるな。俺が君に手を出すわけないだろう?」東山裕はまるで荒唐無稽な話を聞いたかのように立ち上がり、暗い目で彼女を見つめた。「その時君は成人してたよな。抵抗する力も判断する力もあったはずだ。それに、なぜ今まで一度も弁解しなかった?」

「……」

「今更自分を正当化しようとしても遅いぞ。でも君がそれほど俺を愛してるなら、今から積極的になってくれても拒まないよ。妻の要求を満たすのも、夫としての義務だからな」邪悪な笑みを浮かべながら言い終えると、彼は大股で部屋を出て行った。

海野桜は憂鬱で食べ物も喉を通らなくなった。

本当に彼が先に手を出したのに……

もし彼が突然キスをしてこなければ、彼女だってもっと欲深い考えなんて……持たなかったはずなのに。

でも彼はきっと覚えていない。だから彼女も弁解しなかった。

結局、彼と関係を持つかどうかを決めたのは、彼女自身だから。

……