向こうから東山裕の低い声が聞こえた。「福岡市に着いたのか?」
「突然帰ってきたのに、何も言うことないの?」海野桜は実は彼のことをまだ怒っていた。彼女をこんなにもてあそんだことに。
東山裕は低い声で言った。「特に言うことはない。帰ったのならそれでいい。ここに残っていても何もできないだろう」
「そうね、私はあなたの目には何の役にも立たない人間なのよ!役立たずなのに、なぜニューヨークに連れて行ったの?東山裕、私をもてあそぶのが楽しかった?!」
「もてあそんでなどいない。入札に参加させないことは直前に決めたんだ」
「じゃあ、私がいなくても入札は成功したんでしょう?」海野桜は皮肉を込めて言った。
東山裕は素直に認めた。「ああ、成功した。だが、お前の功績もある」
「いりません!成功したなら、あなたが帰ってきたら離婚しましょう。そうしないと、私から一方的に離婚を公表することになるわよ!」
その時は、体面など気にしていられないわ。
東山裕は淡々と言った。「離婚がそう簡単にはいかないことは分かっているだろう?」
「何が言いたいの?どんなことがあっても離婚するわ!」
「そんなに急いで離婚したいなら、両家の年長者を説得するのは全部お前の仕事だ」
「え?」
東山裕は答えずに電話を切った。
海野桜は憤慨し、憂鬱になった。
全部私の仕事だって、どういうこと?
離婚は二人の問題なんだから、二人で解決すべきでしょう。
まあ、今一番離婚したがっているのは確かに私だけど……
海野桜は頭が痛くなった。結婚する時、おじいちゃんを説得するのがどれほど大変だったか覚えている。
今度は離婚だなんて、おじいちゃんに殺されるかも!
……
海野桜が浜田家の屋敷に戻ると、浜田統介は彼女を見て喜んだ。
「桜、今日ニューヨークから帰ってきたのか?一人で?裕は?」
「おじいちゃん、私は先に帰ってきたの。東山裕はもう少ししたら帰ってくると思う」
「入札は成功したのか?」
海野桜は頷いた。「うん、成功したわ」
浜田統介は大笑いした。「裕は本当にすごいな。おじいちゃんは彼が必ず成功すると分かっていたよ」
そうね、東山裕はすぐにアジア屈指の富豪になるわ。
しかも最も若く、最もハンサムな財閥になる。
そうなれば彼の名声は世界中に轟き、誰もが彼を崇拝するようになる。