第107章 彼の抱擁

毎回見るたびに、なんとなく違和感を覚える。

海野桜も彼の車を見かけた。

海野桜はアクセルを踏み込み、彼より先に曲がったが、東山裕の車の性能の方が優れていて、あっという間に追いついてきた。

彼は意図的に彼女を追い越さず、彼女のすぐ近くを並走していた。

海野桜は横目で彼を睨みつけた!

東山裕もちょうど彼女の方を見ていた。二人とも窓を開けていて、東山裕は視力が良かったので、彼女が泣いていたように見えることにすぐ気づいた。

濃い眉を少し顰め、彼は海野桜が何故泣いているのか不思議に思った。

もしかして海外留学に行けないから泣いているのだろうか?

今日、お爺様から電話があり、海野桜が屋敷に来た目的も当然知っていた。

でも彼女は屋敷を出てからずいぶん経っているから、それで泣いているはずはない。