第133章 もう誰も愛したくない

東山裕が電話に出ると、海野桜は直接言った。「ただ一言だけ伝えたくて。もう会社には行かないつもりよ。これからは自分の家で暮らすわ。設計図は完成させるから、あなたの助言と指導に感謝してるわ。この課題は絶対に提出するつもりだから。採用するかどうかは、どちらでもいいわ。離婚するまでの間、必要な協力があれば、引き続き協力するわ」

向こう側の東山裕は低い声で「分かった」と一言だけ答えた。

「それと...」電話を切られそうで、海野桜は慌てて声を出した。「一つ相談があるの。柴田治人の妹の橋本友香が、施設の建設過程を撮影したいと言ってて、東山内部での取材が必要になると思うから、あなたの許可が欲しいの」

「図面は君のだけを採用する」東山裕は質問に直接答えず、そう言って電話を切り、無表情で顔を上げて山田大川に合図した。「続けて」

「はい...」山田大川は報告を続けたが、なぜか今日の社長の機嫌があまり良くないように感じた。

しかし、彼は明らかに普段通り冷静で、何も異常な様子は見られなかった。

もしかしたら、すべて自分の気のせいかもしれない...

...

海野桜は携帯を片付けながら、東山裕の言葉の意味を考えていた。

彼は一体何を言いたかったのだろう?

海野桜はしばらく考えてようやく理解した。

彼は橋本友香が施設の建設過程を撮影することを承諾したが、図面は彼女のものだけを採用する。そして彼女はもう会社に行かないので、橋本友香も会社での取材は必要ないということだ。

海野桜は理解すると、嬉しそうに橋本友香に電話をかけた。

橋本友香もこのニュースを聞いて喜び、海野桜の家での撮影取材については、もっと嬉しいと言った。リラックスできて緊張しなくて済むからだ。

橋本友香のやる気に満ちた様子を見て、海野桜も熱意が湧いてきた。

今回の家の設計は、絶対に真剣に取り組まなければ!

海野桜はその日のうちに退院し、当然浜田家に戻った。翌日、張本家政婦が彼女の荷物を全て持ち帰ることになっていた。

これからは、もう東山裕と一緒に暮らす必要はない。

今度こそ、彼らは本当に離婚することになる。

転生してから今まで、海野桜は毎日離婚のことで頭を悩ませていた。これは前世で死ぬ前の願いだった。

もしこの願いが叶わなければ、前世の呪縛から逃れられない気がしていた。