第153章 1銭も分けてもらえない

翌日、浜田家と東山家は福岡市最大のホテルで、豪華な個室を予約した。

浜田家からは四人が来ていた。浜田統介、海野桜、そして浜田夫婦だ。

海野桜には分からなかった。彼らが来る必要があるのか、彼女と祖父だけで十分なはずだった。

東山家からは三人、東山裕と両親が来ていた。

今日、両家が集まったのは、二人の離婚について話し合うためだった。

大家族というのは面倒なもので、離婚も簡単にはいかず、様々な協議や調整が必要だった。

しかし海野桜には自信があった。東山裕とスムーズに離婚できるはずだと。

第一に、祖父が彼女の味方だった。

第二に、東山裕の両親は理性的で、物分かりの良い人たちだったので、彼女を困らせるようなことはないはずだった。

第三に、東山裕も離婚に同意しているのだ。

海野桜はホテルを出たら、すぐに離婚手続きに行けると思っていた。

協議書も東山裕が持ってきていた。

両家が慎重に確認すると、張本花江が最初に不満を口にした。「どうしてこんな協議書なの?桜ちゃんが離婚して、一銭ももらえないなんて?」

浜田英司も不満そうだった。「うちの桜をいじめているのか?」

「叔父さん、叔母さん、私が財産を一切要らないと言ったんです。東山裕は関係ありません!」海野桜は慌てて言った。

しかし、当初東山裕が離婚協議書にサインさせた時、彼女はよく確認せず、協議書の内容も知らなかった。

ただ、彼が彼女の言う通りに一銭も分けてくれないと知って、なんて意地悪なんだと思った。

もちろん、彼女は本当に彼のお金は要らなかった。

浜田家の人々には気付かなかったが、東山秀造と鴻野美鈴は気付いていた。

協議書の一部が差し替えられており、財産分与について書かれたページは明らかに新しい匂いがした……

息子はそんなケチな人間ではない。

海野桜に一銭も渡さないという協議書は明らかにおかしく、浜田家が黙っているはずがない。

浜田家が納得しなければ、離婚はそう簡単には進まない……

鴻野美鈴は東山裕を横目で見た。息子は本当に腹黒い。

よくやった!

さすが夫婦の長所を受け継いでいる!

浜田夫婦は海野桜の言葉を聞いて、案の定怒り出した。どんな理由があろうと、彼女のやり方に納得できなかった。