「行ってらっしゃい。彼女が戻ったら、電話をかけさせます」
東山裕は頷いて、立ち去った。
海野桜は電話を切ると、不思議そうに相良剛に尋ねた。「どうして自分の名前を言わなかったの?」
相良剛は笑って言った。「浜田おじいさんが僕と一緒にいることを知ったら、きっと怒るよ」
「どうして?」海野桜は理解できなかった。
男は故意に真面目な表情で言った。「浜田おじいさんは考えるだろうね。あのろくでなしが福岡市に来たのに、まず私に会いに来ないで、どうして孫娘に会いに行ったんだ。しかも夜遅くに孫娘と会うなんて、何か企んでいるんじゃないのか。だめだ、今度会ったら、厳しく懲らしめてやらなければ!って」
海野桜は思わずくすくす笑った。「そんなことないよ。おじいちゃんはそんなふうに考えないわ」
「もしそう考えたらどうする?」相良剛の眼差しが深くなった。
海野桜は確信を持って首を振った。「そんなことない。私があなたと一緒にいれば、おじいちゃんは安心するわ。きっとあなたを信頼してるもの!」
相良剛は頷き、彼女を見つめて尋ねた。「君は?僕を信頼してる?」
海野桜は躊躇なく頷いた。「もちろん!」
「そんなに信頼してくれるの?」男は眉を上げた。「光栄だな」
海野桜は笑って言った。「あなたの着ている服を見ると、とても親しみを感じるの。国民全員があなたたちを信頼してるわ!」
相良剛は自分の着ている軍服を見て、わざと嘆いた。「つまり、君は僕の服を信頼してるだけで、僕の顔は信頼できないってこと?」
相良剛は軍人らしい荒っぽさがあったものの、目は正直で、人に安心感を与えた。
海野桜は笑い出した。「隊長、私はあなたのことも信頼してますよ!」
相良剛は満足して命令口調で言った。「本官をそんなに信頼してくれるなら、安心して遊びなさい。夜は必ず無事に家まで送り届けるから!」
「イエッサー!」海野桜はすぐに敬礼のポーズをとった。
相良剛も真面目な顔つきで敬礼を返し、海野桜はもう我慢できずに大笑いした。
彼らはレストランでとても楽しく話をした。
その一方で、あるお洒落なフランスレストランでは、林馨と柴田治人が向かい合って座っていた。
しかし、雰囲気は決して良くなかった。
林馨は夜に受けた屈辱で、今でもつらい気持ちでいっぱいだった。