第196章 少爺の世話を頼む

以前、彼が嫌っていた海野桜の執着的な態度のすべて。

今思えば、意外と大切なものに思える。

今の彼には、もう手に入れることのできない贅沢な願い……

東山裕は突然、自嘲的に笑い出した。

一体自分はどうしたんだろう、どうして急に海野桜の毒にやられてしまったのか。

それもこんなにも深く……

……

海野桜は疲れて家に帰り、祖父の相手をした後。

二階に上がってシャワーを浴び、食事もせずにそのまま寝てしまった。

今日は本当に驚かされることが多すぎた。

永遠に眠っていたかった。

目が覚めた時には、もう翌朝になっていた。

祖父が既に無くなった教科書と携帯電話を揃えてくれていた。

「ありがとう、おじいちゃん!」海野桜はお爺さんを抱きしめると、楽しそうに授業に向かった。

昨日起きた大規模強盗事件は、全国の人々が知ることとなった。

しかし、当事者が海野桜だということは誰も知らなかった。

現場が封鎖されていたため、彼らの姿を撮影した人はいなかったからだ。

橋本友香は昼食を共にする際、まだこの件について話し合っていた。

海野桜は何も言わなかった。ただ前世の悲劇が避けられ、多くの人々が死ななくて済んだことを喜んでいた。

海野桜は考えていた。神様が自分を生まれ変わらせたのは、自分の悲劇を変えるだけでなく、他人の悲劇も変えるためだったのだろうか?

どちらにせよ、多くの死傷者を避けられたことで、彼女の心は晴れやかだった。

その後、穏やかな日々が2日ほど過ぎた。

強盗犯も捕まった。

強盗事件の騒ぎも収まった。

東山裕は海野桜に干渉してこなかった。彼女は、あの日以降、彼が自分に諦めをつけたのだと思っていた。

午後は授業が少なく、海野桜は早めに下校しようとしていた。

しかし、学校の門で人に止められた。

来た人は浅瀬湾の東山邸の執事だった。

執事は紳士的で優雅な服装をし、笑顔も丁寧で適度なものだった。

「浜田さん、夫人の命により、浅瀬湾までお越しいただきたくご連絡に参りました。若様はここ数日気分が優れず、治療にも協力的ではありません。怪我の具合も全く良くなっていません。ご主人様も夫人も大変心配されており、やむを得ず、夫人が若様を説得していただきたいとのことです。」