しかし、この件は非常に深刻で、重視しなければならない。
「おじいさん、この件は海野桜には当分言わないほうがいいと思います。勉強の邪魔になりますから。私が密かに人を派遣して彼女を守らせます」と東山裕が提案した。
老人は頷いて、「その通りだ。では頼むぞ」と言った。
「当然です」東山裕は立ち上がり、「上階に行って彼女の様子を見てきます」
「ああ、行ってくれ」老人はこの時、心配で一杯で、彼が何をしようとしているかなど気にも留めなかった。
東山裕は上階に行き、そっと海野桜の部屋のドアを開けると、彼女が机に向かって真剣に勉強している姿が目に入った。
彼が彼女の傍に来ても、彼女は気付かなかった。
海野桜は問題を解きながら、小声で公式を呟いていた。
東山裕は彼女の柔らかな横顔を見つめ、自然と表情が柔らかくなった。
彼は彼女の邪魔をせず、しばらくそうして見つめた後、立ち去った。
彼がドアを閉めた瞬間、海野桜は少し顔を上げ、目が微かに揺れた。
実は彼女は東山裕が後ろにいることを知っていた。
彼の影が壁に映っていたから……
でも彼が声を掛けなかったので、彼女も何故か彼の存在を知らないふりをした。
彼に何を言えばいいのか分からなかったし、彼と向き合いたくもなかったから。
彼と林馨の間の件がどうなったのかも、聞きたくなかった……
できることなら、もう彼に連絡して欲しくなかった。
……
何の影響も受けていない海野桜は、翌日も普通に授業に出た。
午後の授業は比較的早く終わった。
彼女が鞄を背負って校門を出たところで、突然どこからともなく現れた林馨に行く手を遮られた!
突然彼女を見て、海野桜は一瞬驚いた。
林馨は憔悴した様子だったが、それでも少し高慢な態度を保っていた。
「海野桜、どこかで話をしましょう」彼女の口調にも、強い疲れが滲んでいた。
海野桜は冷淡な表情で、相手にせずに歩き続けようとした。
林馨は再び彼女の行く手を遮り、「お願いがあって来たの!」と突然言った。
海野桜は少し驚いた。
林馨が彼女にお願い?
林馨はもう体裁など気にしていられず、直接言った:「告訴を取り下げます。何も追及しません。社長に私を解雇しないよう言ってくれませんか?」
海野桜はさらに驚いた。東山裕が彼女を解雇するつもり?