海野桜は不思議そうに「どこに行くの?」と尋ねた。
「話をする場所を探す」東山裕は低い声で答え、明らかにこれ以上の説明を避けたがっていた。
海野桜は彼に頼みごとがあるので、当然、彼の言うことに従うしかなかった。
車に乗り込むと、彼は彼女をレストランへ連れて行き、彼女の好きな料理をいくつか注文した。
海野桜は彼が何を注文したのか気にもせず、直接彼に言った。「あなたを訪ねてきてはいけないとわかっています。でも、おじいちゃんは私にとってとても大切な人なんです。だから…」
「食事をしろ!」東山裕は彼女の言葉を遮った。「食事をしてから話を聞く」
「食べたくありません…」海野桜は拒否した。
東山裕は黒い瞳で見つめた。「私と一緒にちゃんと食事をしてから、ゆっくり話を聞こう」
「……」
東山裕は箸を取り、彼女の好きな料理を取り分けてやった。
海野桜はそのとき気づいた。彼が注文したものは全て彼女の好物だったことに…
でも…
「食欲がありません」海野桜は依然として拒否した。彼女が彼を訪ねてきたのは、ただおじいちゃんを救い出してほしいからだった。
本当に食欲がなかった。
東山裕は彼女に料理を取り分け続けながら、低い声で言った。「私も食欲はない。でも、君と一緒なら、少しは食べられるかもしれない」
「でも私は食べられません!」海野桜は冷たい表情で言った。「東山裕、私はおじいちゃんを解放してもらいに来たんです!どうすれば彼を救い出すことを承諾してくれますか?何か条件があるなら、言ってください。無理なら…もういいです」
東山裕は少し目を上げた。「つまり、君は私に頼みに来たということか?」
海野桜は歯を食いしばって「はい!」と答えた。
「私に頼むなら、食事を共にすることさえできないのか?」
「食べたら承諾してくれるの?!」
「これは君と条件を話し合うための前提だ。食事をしないなら、何も話し合わない!」東山裕の口調は冷たく硬く、交渉の余地はなかった。
海野桜は冷笑して「わかった、食べます!」
彼女は箸を取って食べ始め、しかも早く食べた。
東山裕は彼女のその様子を見て、目の奥に暗い色が浮かんだ。「ゆっくり食べろ。私が食べ終わるまでは話し合わない」
「……」海野桜は箸をきつく握り、我慢することにした。