第297章 私に頼むな……

海野桜は少し目を伏せて、「分かっています。あなたたちが最大限の譲歩をしたということを言いたいのでしょう。でも東山裕、私には目の前で祖父が苦しむのを見過ごすことはできません……祖父は、この世界で私に一番良くしてくれた人で、私の唯一の肉親なのです……」

「たとえ祖父が間違ったことをしたとしても、私の心の中では、依然として最高の人です。祖父がいなくなれば、私には肉親がいなくなってしまいます。もう二度と、あんなに私を愛し、世話をしてくれる人はいなくなり、この世界には、寂しく私一人だけが残されることになります……」

「東山裕、私が代わりに刑務所に行きます。どれだけ長くても構いません。私はただ祖父に生きていてほしい、元気で生きていてほしいだけなんです……」

「だって祖父は私にとって、とても大切な存在なんです!」

海野桜の一言一言が、硫酸のように東山裕の心を蝕んでいった!

かつて、彼女が最も大切にしていた人は彼だった。

今では祖父に変わってしまった……

そして彼は祖父を刑務所に追い込んだ、彼女は必ず彼を憎んでいるはずだ。

しかし、彼もこうしたくはなかった。

彼女のために、彼は責任追及を諦め、ただ真相を究明したいだけだった。

祖父が自ら自首したのだ。

だから、彼には祖父を救うことはできない……

彼が望んでも、東山家全体が同意しないだろう!

しかし海野桜がこれほど苦しむのを見て、彼も苦しかった。

できることなら、深い血の恨みさえなければ、彼は本当に何も顧みず、彼女の幸せだけを考えただろう。

皮肉にも彼は本当に決意が揺らいでいた……

彼は揺らいでいた、東山裕は笑ってしまった。

「海野桜、私に頼まないでくれ……」彼は突然冷たく言った、「君は本当に私に頼んではいけない!」

なぜなら彼は耐えられない、心が軟化してしまう、彼女の哀願に抵抗できなくなってしまう。

しかし海野桜は彼が拒否したと思い込んでしまった。

彼女は呆然として、心の中が不思議と冷たくなり、何を言えばいいのか分からなくなった。

「桜!」突然一人の影が現れて彼女の体を掴んだ、「彼に頼むな、頼む必要なんてない!彼には君が頼むような価値はない!」

海野桜は驚いた、「相良兄……」

東山裕は相良剛を見て、一瞬驚いたが、すぐに表情が陰鬱になった。