第305章 この日を長い間待っていた

リビングに入ると、使用人たちは皆熱心に彼女を出迎えた。

彼らは相変わらず彼女のことを若奥様と呼び、ここの全てが変わっていなかった。まるで彼女と東山裕が一度も別れたことがないかのようだった。

「若奥様、夕食の準備ができております。早めにお召し上がりください。若様は用事があって遅くなるそうです」と、一人の使用人が彼女に告げた。

海野桜は頷き、そのまま食堂へ向かった。

料理は全て彼女の好みのもので、海野桜は憂鬱な様子もなく、表情も普通だった。

食事を済ませると、彼女は二階に上がってシャワーを浴び、その後本を取り出して勉強を始めた。

学校はすでに始まっており、彼女は通学を続けるつもりだった。

おじいさんさえ無事なら、彼女も簡単に自分の人生を諦めたりはしない。

今の海野桜は、以前とは本当に違っていた。

かつては恋愛だけが彼女の世界だったが、今は恋愛に全く興味のない彼女は、勉強に没頭していた。

最近これほど多くの出来事が起こり、今日もおじいさんを失いかけたというのに。

しかし一度困難を乗り越えると、すぐに立ち直ることができた。

……

東山裕が寝室に入ると、そこには集中している彼女の姿があった。

彼は一瞬立ち止まり、ドア口に立ったまま彼女を見つめ、反応を忘れてしまった。

そう、彼女の回復力に驚かされたのだ!

しかし彼の心は嬉しかった。彼女が落ち込むことを望んでいなかったからだ。彼女がこんなに前向きで楽観的なことを、とても嬉しく思った。

海野桜は彼が入ってきたことに気付かず、真剣に問題を解いていた。そして難しい問題に直面し、どう解けばいいか分からなくなっていた。

「ここがポイントだ。ここを理解すれば解けるはずだ」と東山裕が突然指を差した。

海野桜はハッとした。

彼女は振り返らずに、彼の言う通りに考えてみた。すると確かに理解でき、問題も解けた。

東山裕は彼女の隣に座り、深い眼差しで彼女を見つめながら言った。「もう勉強しないと思っていた。建築設計なんて、なおさらね」

結局のところ、今回は彼が彼女を利用したのだから。

彼女がこの学科を嫌いになると思っていた。

海野桜は本を閉じ、淡々と言った。「なぜ学ばないの?あなたのために私の人生を諦めるなんて、もっとありえない」

彼女のその言葉に、東山裕の心は苦さと安堵が入り混じった。