午後、東山裕は時間通りに海野桜を迎えに来たとき、彼女の様子がおかしいことに気づいた。
「今日は外で食べようか。何が食べたい?」と車を発進させながら彼は尋ねた。
海野桜は少し考えてから「万味亭に行きましょう」と言った。
久しぶりにそこで食事をしたいと急に思ったのだ。
東山裕は少し驚いた。
彼は、彼女がいつものように「どこでもいい」と言うと思っていた。しかし彼女はそうせず、むしろ要望を口にしたことで、東山裕は思いがけない喜びを感じた。
「いいね、万味亭に行こう!」東山裕は笑顔を見せた。万味亭どころか、彼女が白鳥の肉を食べたいと言っても連れて行くつもりだった。
海野桜はウォークマンを取り出してヘッドホンをつけ、洋楽を聴きながら、時々口ずさんでいた。
東山裕は何度か彼女を盗み見たが、邪魔をしないように我慢した。