午後、東山裕は時間通りに海野桜を迎えに来たとき、彼女の様子がおかしいことに気づいた。
「今日は外で食べようか。何が食べたい?」と車を発進させながら彼は尋ねた。
海野桜は少し考えてから「万味亭に行きましょう」と言った。
久しぶりにそこで食事をしたいと急に思ったのだ。
東山裕は少し驚いた。
彼は、彼女がいつものように「どこでもいい」と言うと思っていた。しかし彼女はそうせず、むしろ要望を口にしたことで、東山裕は思いがけない喜びを感じた。
「いいね、万味亭に行こう!」東山裕は笑顔を見せた。万味亭どころか、彼女が白鳥の肉を食べたいと言っても連れて行くつもりだった。
海野桜はウォークマンを取り出してヘッドホンをつけ、洋楽を聴きながら、時々口ずさんでいた。
東山裕は何度か彼女を盗み見たが、邪魔をしないように我慢した。
彼は今のこの気楽な雰囲気を壊したくなかった。たとえ二人とも何も話していなくても。
万味亭に着くと、東山裕は海野桜の好きな料理をたくさん注文した。
以前は海野桜が何を好むのか、東山裕は全く知らなかった。
いつからか、彼女の好みをほとんど全て把握するようになっていた……
海野桜は気分が良く、食事もおいしそうに食べていた。東山裕が料理を取り分けようとすると、彼女は「大丈夫です、自分でできます」と言った。
東山裕には分かった。彼女は本当に取り分けが必要ないだけで、意図的な拒絶ではないことが。
「今日は機嫌がいいみたいだね?」東山裕はついに我慢できずに尋ねた。
「うん、いくつかのことが整理できたから、気分がいいの」海野桜は素直に認めた。
東山裕の心は急に喜びで満たされた!
彼は、彼女が自分との関係について整理がついたのだと思った。
口元の笑みを抑えながら、東山裕は探るように「食事の後、映画でも見に行かない?」と尋ねた。
海野桜は「宿題があるから帰らないと」と断った。
「夜は僕が教えてあげるから、すぐ終わるよ。映画のチケットはもう買ってあるし、食事が終わったら行こう」と彼は断られる余地を与えずに言った。チケットについては……
今すぐメールを送って予約してもらえばいい!
海野桜は仕方なく「どうでもいいです」と頷いた。