第319章 彼女を腕の中で守る

海野桜も自分の答えを言いたくなく、淡々と尋ねた。「本当に周りから見放されるのが怖くないの?」

聞いた瞬間後悔した。

この質問に何の意味があるのか。彼は既に手放さないと言ったのだから。そして彼が望むなら、彼女も後悔しないだろう。

東山裕は彼女を一瞥し、口角を上げた。「どうした?心配なのか?」

海野桜は言葉を失い、「そんなことあり得ると思う?」

「なぜあり得ないんだ?」東山裕は声を暗くして言った。「君がこれを気にしているのは分かっている」

海野桜が反論しようとした時、彼の言葉が続いた。

「もちろん、私のことを気にかけているわけじゃない。ただ私に多くを借りたくないだけだ」

「……」海野桜は言葉を失った。確かに彼女は東山裕が周りから見放されることを気にしていた。

彼女と彼の取引は、お互いの意思の下で行われたものだった。

もし彼が困っているなら、彼女は無理強いしないつもりだった……

東山裕は更に彼女を慰めた。「安心して、誰も私を脅かすことはできない。実は彼らが怖がっているのは、私が彼らを見放すことだ」

彼らが彼から離れることを彼が恐れているわけではない……

海野桜は少し驚いた。

そうだ、彼は東山裕、アジアを制覇した金融界の巨頭なのだ。

彼は既に世界の頂点に立っている。誰が彼を脅かすことができ、誰が本当に彼に見放されたいと思うだろうか。

実力が全てを決めるこの世界で、彼がルールなのだ。

しかし、彼の両親は確実に彼を恐れることはないだろう。

でも彼女も利己的だった。彼が彼女と取引をしたいなら、彼女から断ることはしない。

彼女はただ祖父に元気で生きていてほしかった……

結局のところ、彼らは両方とも利己的で、お互いの必要なものを得ているだけだった。

海野桜は、自分と東山裕がここまで来るとは思ってもみなかった。

ずっと、彼女は彼らが一緒になるか、二度と関わらないかのどちらかだと思っていた。しかし、取引のために一緒になるという結果は予想外だった。

実際、このような関係は最も不自然で、問題が起きやすい。

でも彼らには他に方法がなかった……

海野桜は窓の外を見つめて考え込んでいたが、しばらくして、これが帰り道ではないことに気付いた。

東山裕はどんどん道を外れ、海辺まで来ていた!

「どこに行くの?」海野桜は不思議そうに尋ねた。