東山裕の目が震えた。
彼女は彼を愛していないにもかかわらず、そんな言葉を聞けて、彼の心は感動していた。
どうあれ、少なくとも彼女は後悔していない。
それだけでも、彼女は彼よりもずっと立派だった。恋愛の世界では、彼女はいつも彼より上手くやっていた。
昔もそうだし、今もそう……
東山裕の心は突然、様々な感情が込み上げてきた。
彼は彼女の手を握り、どれほどの勇気を振り絞ったかわからないまま言った。「海野桜、僕は君を愛している。でも、君の幸せをもっと願っている。でも、君を不幸にしてきたのは、ずっと僕だった。だから今日、結婚は取りやめにしよう!」
海野桜は驚愕し、彼の言葉の意味がすぐには理解できなかった。
東山裕は彼女を見つめ、低い声で続けた。「これは君を諦めたという意味じゃない。ただ、君に自由に選択する機会を与えたいんだ!おじいさんを救うために、僕と結婚する必要はない。君は何のために自分を犠牲にする必要もない。僕も君を強制しない、君のどんな選択も尊重する。だから数日間考える時間をあげる。今週末は君の20歳の誕生日だ。僕は時代ホテルの最上階で君を待っている。一日中待っている。来てくれれば、僕たちはやり直せる!来なければ、君の選択を尊重する……」
東山裕はそう言い終えると立ち去った。
海野桜は一人でそこに座り、長い間我に返れなかった。
彼女は、東山裕がこのような決断をするとは思わなかった。
両家の恨みも追及せず、おじいさんを救い出しただけでなく、彼女との結婚も強要せず、自由な選択をさせてくれる。
たとえ彼を選ばなくても、もう何も追及しないと。
彼はここまで完全に譲歩して、もう底線すらないところまで来ている……
海野桜の心情は突然とても複雑になった。
東山裕、なぜこんなことをするの。
私が全てを諦めようとしているときに、なぜ全てを与えて自由に選ばせようとするの……
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海野桜は学校に行かず、病院におじいさんを見舞いに行った。
今は何もする気が起きず、ここに来るしかなかった。
しかし頭の中では、さっきの東山裕の言葉が響き続けていた……
海野桜は少し自嘲的になった。
彼女は俗世を悟ったと思っていた。実際、確かに悟っていた。結局は俗世の誘惑に抗えないのだろうか?
東山裕、譲歩するべきじゃなかったのに。