第345章 まるで彼女を知らないかのように

海野桜は家に帰ったばかりで、休む暇もなく、すぐに東山裕の会社へ彼を探しに行った。

しかし、予約をしていなかったため、受付の女性は彼女を中に入れることも、東山裕に連絡を取ることもしてくれなかった。

しかも受付の女性が変わっていて、彼女のことを知らなかったので、なおさら通してもらえなかった。

海野桜は仕方なく会社の入り口で彼を待つことにした。どうせもうすぐ退社時間だったから。

同時に、彼への電話をかけ続けることも諦めなかった。

しかし残念ながら、東山裕の携帯電話は常に電源が切られていて、どうしても繋がらなかった。

海野桜は実は予想していた。彼は新しい番号に変えたのかもしれないと。彼のような大物は、携帯電話の電源を切ることなどありえないはずだった。

今日ずっと電源が切られているということは、以前の番号をもう使うつもりがないということしか考えられなかった。

海野桜は山田大川に連絡を取ろうと思ったが、彼女は山田大川の番号を持っていなかった。

つまり、今はここで待つしか彼に会う方法がなかった……

海野桜は2時間待ち、退社時間となった。

彼女は駐車場の方向をずっと見つめ、東山裕の車が出てくるのを待っていた。どれくらい時間が経ったか分からないが、ほとんどの人が帰った頃、東山裕の豪華なポルシェがゆっくりと出てきた。

「東山裕!」海野桜はすぐに追いかけ、彼を止めようとした。

車の中の男性は、彼女を見なかったかのように、一切停止することなく、彼女の傍らを通り過ぎた。

海野桜は一瞬固まった後、また追いかけて「東山裕、待って、止まって!」と叫んだ。

無表情の男性はバックミラーで彼女を見たが、まるで彼女を知らない人のように、何の反応も示さずに素早く去っていった。

海野桜は少し距離を走って追いかけたが、彼の車が視界から消えていくのを見つめることしかできなかった。

その場に立ち尽くし、海野桜は少し途方に暮れた気持ちになった。

東山裕は彼女を見かけたはずなのに、ただ無視したかっただけなのだろう。

彼女も彼を邪魔したくはなかったが、彼がおじいさんと何を話したのか、どうしても知りたかった。

そして、彼に真実を説明しなければならなかった……

海野桜は全く諦めず、車で東山裕の別荘へ彼を探しに行った。