海野桜は彼を見て、試すように尋ねた。「あの日、おじいちゃんに会った時、本当に何も話さなかったの?」
「何も!」東山裕は即座に答えた。
海野桜はそれ以上何も聞かなかった。彼が何もないと言うなら、本当に何もなかったのだろう。
もしかしたら、おじいちゃんは誘拐されたのかもしれない。犯人は恐らく鈴木健雄の義兄弟、あの佐藤勇の子孫だろう。
おじいちゃんは佐藤勇の末っ子を捕まえたから、他にも子孫がいて、おじいちゃんに復讐しに来たのかもしれない。
海野桜が自分の考えを話すと、東山裕は頷いた。「その可能性は考えられる。排除はできない。」
海野桜はさらに不安になった。「もし本当に彼らがやったなら、きっとおじいちゃんに危害を加えるわ!」
「でも、老人は明らかに意図的に家出したんだ。」東山裕は続けた。「だから必ずしも何かあったわけじゃない。」
「どうしてわかるの?」海野桜は驚いた。
東山裕は彼女を見て言った。「監視カメラには、彼の車が市外まで走っていく様子が映っていた。彼は自分で市外に出て行ったんだ。誰かに連れ去られたわけじゃない。だから意図的な家出だと判断した。」
彼がそう言うのを聞いて、海野桜は少し安心した。
「でも、おじいちゃんはどうして出て行ったの?」
東山裕は首を振り、わからないと示した。
そうだ、彼がどうしてわかるだろう。もしわかっていれば、おじいちゃんはもう見つかっているかもしれない。
海野桜もおじいちゃんがなぜ家出したのかは気にしていなかった。ただ無事であってほしいだけだった。
三重県まで車で約2時間かかる。海野桜たちは休む間もなく急いで向かい、できるだけ短時間で到着しようとした。
浜田統介の車は人里離れた山の上で発見された。
海野桜たちが現場に到着すると、多くの警察官が付近を捜索していた。
福岡市の警察官もすでに駆けつけていた。
東山裕は海野桜を連れて状況を尋ねに行った。警察官は、車内に争った形跡はなく、付近でも浜田統介の痕跡は見つからなかったため、現時点での浜田統介の状況は判断できないと言った。
人が見つからないということは、まだ希望があるということだ。
海野桜のずっと張り詰めていた神経も、少し緩んだ。しかし警察は仕事に真面目で、まだ付近の捜索を続けていた。
海野桜と東山裕は車の中で待ち続け、その場を離れなかった。