リビングに立って、海野桜は家の中のすべてを見渡し、どこもかしこも懐かしく感じた。
人は本当に失うまで、物事の大切さが分からないものだ。
今になって初めて、彼女はこの家をどれほど愛していたのかを知った。
ここにある花や草、一つ一つのものを愛していた。
そしてここでの思い出も大切にしていた……
もしここがなくなってしまったら、彼女の世界も不完全なものになってしまうような気がした。
海野桜はこの古い屋敷が残ることを、そして祖父もきっとそう願っていただろうことを、どれほど望んでいたことか。
……
東山裕が去った後、海野桜との連絡は途絶えていた。
しかし夕食時、海野桜は張本家政婦と一緒に豪華な夕食を用意した。
なぜか、東山裕がここに食事に来る予感がしていた。
二人が料理を並べ終えたところで、案の定、東山裕が戻ってきた。
張本家政婦は彼を見て笑いながら言った。「旦那様、お嬢様はあなたが来られると言っていましたが、本当に来られましたね。これらの料理は、全てお嬢様が特別にあなたのために用意したものです。」
海野桜は顔を真っ赤にして、「張本さん、何を言っているんですか!」
彼女は東山裕が来るかもしれないと言っただけで、特別に彼のために作ったわけではなかった。
張本家政婦はくすくすと笑って、「お二人でゆっくりお召し上がりください。私は邪魔をいたしません。」
海野桜:「……」
張本家政婦の変心は早すぎる。先日まで東山裕のことを嫌っていたはずなのに。
今では東山裕の味方をして、どういうつもりなのか。
海野桜が呆れていると、東山裕の深い瞳と目が合ってしまった!
彼はそのまま彼女を見つめ、彼女の心を見透かそうとしているかのようだった。
海野桜はすぐに声を出した。「座って食べましょう!」
そう言って彼を見ないようにし、自分は座って箸を取り、食べ始めた。
東山裕の目が揺らめき、彼女の向かいに座った。
「君は……」彼が口を開こうとした瞬間、海野桜が先に遮った。「家のことはどうなりましたか?買い戻せそうですか?」
東山裕は淡々と答えた。「かなり難しそうです。」
「相手は売る気がないんですか?」海野桜は問い返した。
男は頷いた。「はい。」
「いくらでも売ってくれないんですか?」