第377章 実家を売ろうとしている

「でも顔色が悪いわね……」張本家政婦は彼女の顔を撫でながら、心配そうに言った。「具合でも悪いの?それとも何かあったの?何か心配事があるように見えるわ」

張本家政婦は彼女を育ててきただけあって、いつも彼女の様子がおかしいことに気づくのだった。

海野桜はソファに座り、しばらく黙ってから言った。「ただなんとなく、悲しい気持ちになるの」

「どうして悲しいの?」張本家政婦も隣に座り、優しく尋ねた。

海野桜は彼女を見つめ、小声で言った。「東山裕のことで……」

張本家政婦は驚いた。「東山坊様のことで?どうして?」

海野桜の目は途端に茫然としたものになり、しばらくして、ただ一言だけ答えた。

「分からないの。ただ彼を見ると、どうしても悲しくなってしまうの」

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張本家政婦は海野桜のために美味しい料理を作った。

海野桜は実家で夕食を食べてから、運転手と一緒に東山裕との新居に戻ろうとした。

帰ろうとした時、突然ここに来ていた伯父と出くわした。

浜田英司は彼女を見かけると、当然のように気遣いの言葉をかけた。

海野桜はもうこの伯父に対して何の感情も持っていなかった。血のつながりがなければ、相手にもしなかっただろう。

しかし最低限の敬意は示すつもりではあった……

簡単な挨拶を交わして、海野桜は帰った。別荘に戻ると、東山裕がまだ帰っていないことを知った。

その夜、彼は一晩中帰ってこなかった。

翌朝早く、東山裕はまだ帰っていなかった。

海野桜が朝食を食べ終わったところで、張本家政婦から電話がかかってきた。

「張本さん、今なんて?!」海野桜は驚いて尋ねた。

電話の向こうの張本家政婦は焦っていた。「お嬢様、旦那様が古い屋敷を売ろうとしているんです。早く止めに来てください!」

「すぐに行きます!」

海野桜は電話を切るとすぐに急いで戻った。

浜田家の古い屋敷は市の中心部からやや離れた場所にあり、周りに高層ビルはなく、住民も少なかったが、環境は良かった。

海野桜はこの屋敷で生まれ、育った。言わば、それは彼女の心の中で唯一の家であり、最も温かい家だった。

そして屋敷の庭の花や草は、すべて祖父が自ら植えたものだった。

家の隅々まで、祖父が配置したものだった……