二人の顔は近く、目線が同じ高さで合った。彼は彼女の驚きに気付いたが、拒絶の兆しは感じられず、それが彼を喜びで満たした。手を伸ばし、乱れた髪を優しく払いのけた。再び、トリスタンは胸が大きく膨らみ、ベラが全く止めようとしないことに温かさを感じた。
彼は彼女の髪を整え終えると、もう一度愛情のこもった笑顔で彼女の目を見つめた。
「ベラ」とトリスタンは言った。温かな笑みが彼の唇にゆっくりと広がり、続けた。「僕は何度も言ってきたよね。君とダックスのためなら何でも捨てる覚悟があるって。家族が僕の唯一の大切なものだから」
「ト、トリスタン、でも―」
トリスタンは指でベラの言葉を遮り、少し乾いた赤い唇を優しく撫でた。
「君が罪悪感を感じているのは分かるよ、ベラ。でも、そんな風に感じる必要はないんだ...」
トリスタンは彼女の温かい頬を親指で撫でながら微笑み、彼女の肩が少し落ちるのに気付いた。
「分かるかい、ベラ?君が入院していた時、僕は二度目に君を失うかと思った。怖くて、他のことなんて何も考えられなかった。君に会いに飛んで戻ってきて、そして...」トリスタンの言葉は突然途切れ、彼は腕を回して彼女を引き寄せた。
ベラはトリスタンの突然の抱擁に驚き、ブランケットを落としてしまった。しかし、彼女は抵抗せず、むしろ少し頭を彼の肩に寄せた。
ベラが拒まないどころか、自ら肩に頭を寄せてくるのを感じて、彼の笑顔は更に広がった。
「こうして君を抱きしめていたいんだ。君のそばにいて、一生守り、大切にしたい。君が一人で苦しんでいると思うと胸が痛むよ」トリスタンは彼女の耳元で囁きながら、抱擁を強めた。「本当に愛しているんだ。僕の言葉が本気だということを証明させてほしい」
トリスタンは愛する女性を黙って抱きしめ、しっかりと抱き締めた。もう二度と手放すまいと。
しばらくして、
彼はようやく抱擁を解き、少し身を引いて彼女の美しい顔を見つめた。
しかし何故か、トリスタンの心は徐々に締め付けられていった。抱きしめてから、ベラが一言も発していないことに気付いたからだ。優しく額にキスをしても、彼女は抵抗しなかった。
喜ぶべきなのに。でも、彼女の沈黙が彼を不安にさせた。