矢崎粟と小島一馬は村の環境に慣れていましたが、この時間帯は多くの人が畑仕事をしていて、人影はまばらでした。家にいる人もほとんどが年配の方々で、矢崎粟は一人一人に挨拶をし、世間話をしました。
良好な関係を築く第一歩は、世間話から始まるものです。
小島一馬は矢崎粟の傍らについて歩き、矢崎粟が自己紹介すると、彼も自己紹介をし、少し恥ずかしそうな様子でした。
手伝いが必要な場面では、矢崎粟は可能な限り真剣に手伝いをしました。
村人たちの目には、彼女は生活体験に来た芸能人というよりも、彼らの傍らで育った少女のように映り、親しみと愛着を感じるようになりました。
そうして数軒を回るうちに、矢崎粟の手には卵や干し肉、乾物など、村人たちからのお礼の品が大小の袋に入って溢れていました。
のんびりとした時間は早く過ぎ、空が暗くなってきたのを見て、二人は贈り物を抱えて家に戻りました。
中庭に入ると、森田輝が腰に手を当て、矢崎美緒たちに向かって、小さな顔を真っ赤にして怒っているのが見えました。
「ひどすぎます。伊藤さんが割った薪も、私たちが頑張って交換した食材も、勝手に持っていくなんて。このような番組にルールや課題は必要ないんじゃないですか?直接奪えばいいんじゃないですか。」
実は伊藤卓は矢崎粟の言う通り、少しだけ薪を割って台所の入り口に置いておき、二人とも一日中疲れていたので、それぞれ自分の部屋で少し休んでいたのでした。
目が覚めて空を見ると、矢崎粟たちもそろそろ帰ってくる頃だと思い、先に火を起こして水を沸かし、野菜を洗っておこうと考えました。そうすれば矢崎粟の負担も減るだろうと。
しかし中庭に出てみると割った薪が消えており、台所に入ると交換しておいた食材も大分減っていました。さらに中央の部屋を覗くと、矢崎美緒たちの食卓には豊富な料理が並んでおり、彼らが持っていったことは明らかでした。
そこで言い争いになったのです。
「だから言ったでしょう。その薪には名前が書いてなかったから、番組スタッフが用意したものだと思ったんです。それに食材だって、あなたたちのが私たちのそばにあったから、私たちのものだと思って使っただけ。使ったものは使ったんだから、そんなに興奮することないでしょう。本当にケチね、食べ物がないわけじゃないのに。」