「その通りね。美緒が来られないなら、他の人は?」矢崎粟は遠慮なく直接的に尋ねた、小島一馬の顔を立てる気配もなく。
矢崎粟がそう言うとは思わなかった矢野常は少し動揺して、「若菜は残って看病を...」
「私は足首を捻挫しても頑張っているのに、誰かさんは本当に看病なのか、それとも怠けるための口実なのかしらね」森田輝は伊藤卓に支えられながら、足を引きずって近づいてきた。
森田輝は全身泥だらけの矢崎粟を見て、先ほど村人から聞いた出来事を思い出し、思わず涙を流した。「粟、なんてそんな無謀なことを!もし人身売買犯に刺されていたらどうするの!」
矢崎粟は森田輝に抱きしめられながら、その泣き声を聞いて、背中を優しく叩いて慰めた。「大丈夫、わかってやったことよ。ほら、私は無事でしょう?むしろあの憎たらしい人身売買犯の方が散々だったわ」
森田輝が矢崎粟の怪我の具合を確認しようとした時、サイレンの音が響いてきた。
数人の警察官が近づいてきて、先頭の警官が尋ねた。「先ほど通報したのは誰ですか?」
林監督が急いで前に出ると、警察は状況を確認した後、小島一馬、矢崎粟、カメラマンの三人を個別に事情聴取し、その後三人は警察署に同行して供述を行った。
三人が警察署から戻ってきた後、監督は上層部に申請を出し、番組の撮影を一日休止することが承認された。制作スタッフと出演者たちにゆっくり休養を取らせるためだ。
しかし、撮影は中断されても携帯電話はまだ返却されず、出演者たちは村を離れることもできなかった。
救助に参加しなかった矢崎美緒、矢崎若菜、岡田淳の三人は、矢野常とスタッフから事の顛末を聞いた。
矢崎美緒は話を聞き終わると後悔の念に駆られた。あの時、感情的にならなければ、今頃は剛士を救い、人身売買犯を捕まえた人物は自分だったかもしれない。
矢崎美緒は村人たちに囲まれている矢崎粟と小島一馬の二人を見つめ、拳を握りしめた。
なぜ矢崎粟が小島一馬と並んで立ち、村人たちの感謝を受けているのか?
小島一馬の隣に立つべきは自分のはずだった!!
剛士のおばあさんは剛士を病院で検査を受けさせて戻ってきており、今は満面の笑みで熱心に矢崎粟と小島一馬を自宅での食事に誘っていた。