矢崎粟たちがキッチンから出てきたとき、先に出ていった矢崎美緒たちがまだ帰っていないことに気づいた。彼らは中庭の石のテーブルの周りに座って、まるで待っているかのようだった。
「監督、来ましたよ」岡田淳は矢崎粟たちを見て、すぐに林監督に知らせた。
林監督は矢崎粟を見るなり笑顔を浮かべ、彼らを呼び寄せた。「みんな揃ったところで、お知らせがあります」
全員が疑問の表情を浮かべながら彼を見つめた。
「皆さんもご存知の通り、この村には高齢者と子供が多いんです。番組制作チームは、今回の撮影への感謝の意を込めて、番組の最終日に村の皆さんのために公演を準備することにしました」林監督は一同を見渡しながら言った。「この公演は皆さんに担当していただきます」
続いて林監督は2つの投票箱を取り出し、「以前と同様に二つのチームに分かれてもらいます。当日は村民一人一人に赤い紙を配り、投票してもらいます。最も多くの票を獲得したチームには、制作チームが小さな願いを一つ叶えることができます」と説明した。
皆は理解した。これは番組制作チームが話題を作りたいという意図だった。
矢崎美緒はずっと自分を表現したいと思っていたので、このような良い機会を聞いて、すぐに「準備する出し物に何か規定はありますか?」と尋ねた。
林監督は首を振って、「特に規定はありません。チーム内で相談して決めてください」と答えた。
出し物の準備があるため、番組制作チームはこれ以降、出演者たちに作業を割り当てないことにした。
しかし、作業はなくなったものの、食事の準備は依然として自分たちでしなければならなかった。
矢崎粟たち4人は小島一馬の部屋に移動し、どんな出し物を準備するか相談を始めた。
小島一馬はこの村の住民に良い印象を持っており、また公演にも興味があったので、率先して「みんな、何か案はある?」と切り出した。
「村の住民は高齢者と子供が中心だから、歌や踊りは彼らの好みではないかもしれない」矢崎粟は自分の意見を述べ、全員の賛同を得た。
伊藤卓は少し悩んでいた。彼は歌と踊りで注目を集めた人物だったので、今回は得意分野が使えないことが残念だった。「残念だな。歌と踊りが一番得意なのに。創意工夫を凝らした出し物を考えないといけないね」