044 誘拐犯

「止まって!」矢崎粟は急いでいた足取りを慎重にした。「あそこに誰かいる」

小島一馬は矢崎粟が指さす方向を見ると、確かに前方の大きな木の後ろに土色の布切れが見えた。

観察すると、土色の布切れは時々見える面積が変化していた。このことから、木の後ろにいるのは人間で、おそらく剛士を連れ去った誘拐犯だと思われた。

【マジか?本当に見つかったの?】

【矢崎粟が本当に占いができるなんて思わなかった!】

【ふん、山には一本道しかないんだから、そこを探せば必ず見つかるよ。これは単なる運が良かっただけさ!】

「あそこにいる人が誘拐犯かどうかわからないけど、念のために計画を立てましょう」矢崎粟は小島一馬とカメラマンを見た。

「もし木の後ろにいる人が本当に誘拐犯なら、私たち三人が一緒に現れると、追い詰められて剛士を人質に取って危害を加えるかもしれない」小島一馬は心配そうに言った。

「その通りね」矢崎粟は少し考えて、「私が囮になって、あの人が本当に誘拐犯かどうか試してみましょう」

矢崎粟の計画は、剛士を探しに一人で山に入った村人を演じ、か弱い女性として姿を見せることだった。

誘拐犯が誘拐犯と呼ばれる理由は、子供を誘拐するだけでなく、機会があれば女性や男性も誘拐するからだ。

もし木の後ろにいる人が本当に誘拐犯なら、暗い雨の夜に一人きりの女性である矢崎粟を見つけたら、間違いなく狙ってくるはずだ。

「それは危険すぎる。相手が武器を持っていたら、あなたが危険な目に遭う」小島一馬は反対した。「もっと安全な方法を考え直す必要がある」

「時間がないわ。危険かどうかは別として、試してみるしかない」矢崎粟は強い信頼を込めた口調で言った。「あなたたちが適切なタイミングで誘拐犯を取り押さえてくれれば大丈夫。それに、木の後ろにいる人が誘拐犯とは限らないし」

条件が限られているため、ネットユーザーたちはカメラに映る映像は見えるものの、雨音に混ざった人物の会話は全く聞き取れなかった。

ネットユーザーたちが見たのは、矢崎粟と小島一馬が頭を寄せ合って少し話し合い、その後別れ、しばらくすると矢崎粟が先ほどの位置からさらに離れた場所に現れ、焦った表情で剛士の名前を呼び始めたことだけだった。