矢崎若菜は小島一馬が面白がって見たがっている気持ちを知らないはずがなく、彼にその面白さを見せたくなかった。
矢崎若菜は小島一馬をちらりと見て、「私自身が食欲がないだけよ」と言った。
小島一馬は口元を歪めて、このまま彼を見逃すつもりはなかった。「彼女との兄妹愛を示すために、半生半熟の料理に向かって、よくそんな勇気を出して食べられたものだね。でも相手は君の犠牲なんて気にも留めず、君を放っておいて自分だけ気ままに行ってしまったみたいだけど」
矢崎粟は矢崎家にいた時、きっと矢崎美緒にさんざん苦労させられたはずだ。今、彼はわざとこの件を明らかにした。矢崎美緒のかわいい天使キャラがどうやって成り立つのか、見てやろうじゃないか!
そして、日頃ネット上で矢崎美緒を擁護し、矢崎粟を攻撃している矢崎若菜のファンたちに、彼らが守ってきた天使様の矢崎美緒が、どれほど偽善的な人間なのかを見せてやろう。
矢崎若菜の表情が一瞬こわばったが、それでも心を落ち着かせた。
「私が食欲がないから美緒に準備させなかっただけよ。余計な推測はしないで」と言って、彼は急いで中庭から部屋に戻った。
しかし、彼のこの立ち去る姿は他人の目には、小島一馬に心の内を見透かされて慌てて逃げ出したように見えた。
【小島一馬の言う通りだわ。私たちの若菜が彼女の面子を立てるために食べたのに、矢崎美緒はどうして若菜のためにお粥一杯も作ってあげないの?】
【矢崎美緒にすごく失望したわ。いつも若菜お兄さんばかりが尽くしているのに、彼女は少しも気遣いがないなんて!】
【そうよそうよ、彼女は他人の好意を受けるだけで、本当に自己中心的すぎる。】
矢崎若菜のファンたちは、先ほどの矢崎粟の言葉で既に矢崎美緒に不満を持っていたが、今や小島一馬のこのような煽りによって、矢崎美緒への不満は更に大きく膨らんでいった。
一方。
矢崎若菜がいないため、兄妹の絆を演じる相手がいなくなり、矢崎美緒は早起きして料理を作る気も失せ、村人の家で労働と引き換えに朝食をもらうことを提案した。
村人は彼らの意図を知ると、すぐに熱心に接待し、仕事を要求することもなく、三人に卵入りの麺を作ってくれた。
湯気の立つ美味しい麺を食べながら、岡田淳は泣きたい気持ちになった。