矢崎若菜は矢崎美緒のことが心配で、まだ少し体調が悪かったものの、早く戻りたいと思っていた。
翌日の早朝、矢崎若菜の要望で、副監督は退院できる彼を番組スタッフのもとへ連れて戻った。
副監督が矢崎若菜を小さな中庭に連れて戻ったとき、入り口に入るなり矢崎粟たちが中庭の石のテーブルで朝食を食べているのが見えた。香りからすると、お粥と卵焼きのようだった。
県の町で朝食を食べていなかった矢崎若菜は、お粥と卵焼きの香りを嗅ぐと、すぐにお腹が空いてきた。
しかし、矢崎粟は彼と副監督が中庭に入った瞬間から見ていたにもかかわらず、一緒に朝食を食べるよう誘うことはなかった。
矢崎若菜が落胆していると、矢崎粟の声が聞こえてきた。「美緒たちは村民の家で朝食を食べています。」
矢崎若菜は呆然と彼女を見上げ、最後に「ありがとう」と言った。
美緒たちは村民の家で朝食を食べているなら、自分はどうすればいいのだろう?
空腹に耐えるか、それとも自分で朝食を作るか?
もともと落ち込んでいた矢崎若菜の心はさらに悲しくなった。実の妹が冷たくするのはまだしも、どうして美緒まで彼の帰りを待たずに村民の家で朝食を食べに行ってしまったのだろう?
副監督は監督に電話して、今戻る途中だと伝えたはずなのに。
県の町から番組スタッフまでは1時間の道のりしかないのに、美緒はこのたった1時間も待てなかったのだろうか?
矢崎若菜が今、青ざめた顔で魂の抜けたような様子でいるのを見て、生配信の視聴者たちはまた心を痛め、ついでに矢崎美緒を非難した。
【私たちの矢崎若菜は彼女が作ったキノコと鶏肉の炒め物を食べて入院したのに、矢崎若菜に付き添って病院に行くこともせず、今では朝食も待ってくれないなんて!】
【やはり矢崎粟が前に言っていた通り、矢崎美緒は極めて偽善的な人なのね!】
矢崎泰は番組の中継作業室に座り、静かに矢崎若菜と矢崎粟のやり取りを見ていた。
矢崎若菜が矢崎粟にお礼を言うのを見て、彼は眉を上げた。ずっと矢崎粟を快く思っていなかった弟が、自ら彼女にお礼を言うとは思わなかった。
矢崎泰は監督に自分が来ていることを矢崎若菜と矢崎美緒に知らせないよう頼み、同時に彼に会った小島一馬たちにも口外しないよう依頼したため、矢崎若菜と矢崎美緒は彼がここにいることを知らなかった。