逢坂 ティオ

矢崎粟は幼い頃に家族と離れ散り、四歳の時、実の兄に迷子にされた。その後、家族は粟と同い年の女の子を養子に迎え、その子にも「矢崎粟」という名前を付けた。

数年後、ようやく粟が見つかったが、家族は罪悪感からか、優しく接するどころか、養女ばかりを溺愛した。粟と養女が同じものを欲しがると、家族は迷わず養女を優先した。

頼れる人がいなかった粟は、独力で芸能界での成功を掴んだ。しかし、家族は粟を応援せず、彼女のキャリアに干渉し、「粟のため」と言いながら、リソースをすべて養女に回した。

前世の粟は家族の愛を求め、理不尽な扱いに耐え続けた。しかし、養女と共に誘拐された際、家族も幼馴染の恋人もためらわず養女を優先し、粟は見捨てられて命を落とした。

生まれ変わった粟は、すべてを見限り、家族との縁を切ることを決意。生き延びるため、彼女は果敢に芸能界へ飛び込んだ。

そして――

え？長男は芸能界の冷徹な大物社長？ 気づけば粟のスタジオは業界トップに！
え？次男は敏腕マネージャー？ 粟は瞬く間に最強マネージャーとなり、手掛けたタレント全員が大ブレイク！
え？三男は有名アーティスト？ 粟の歌は一曲でネット全体を席巻！
え？四男は天才映画監督？ 粟の映画は記録的大ヒットを達成し、兄ですら嫉妬！

家族は粟の快進撃を見て後悔し、涙ながらに許しを求めてきた。

「お断りします！」粟は冷たい笑みを浮かべて言い放った。

二度目の人生、全部奪い返す

矢崎泰が再び口を開いた最初の言葉は、先ほどの矢崎粟の質問に答えるものではなかった。その言葉を聞いた矢崎粟は目に涙を浮かべ、まるでこの数日間の辛さがついに吐き出せる場所を見つけたかのようだった。


「お兄ちゃん、私は辛くなんかないの、本当に……」


矢崎粟は心の中の感情を抑えられると思っていたが、矢崎泰の優しい目を見た瞬間、涙が止まらなくなり、まるで子供のように悔しそうに涙を拭った。


妹が悔しそうに涙を流すのを見て、矢崎泰は慌てて彼女の涙を拭おうとしたが、涙は止まるどころかますます溢れ出てきた。


矢崎泰は仕方なく、もう一度彼女を抱きしめ、優しく諭すように言った。「粟、怖がらなくていいよ。お兄ちゃんが帰ってきたんだ。お兄ちゃんがいるから、誰も君をいじめることはできない。お兄ちゃんがそんな人たちを全部追い払ってあげるから！」


085 無意識か故意か