携帯電話から聞こえる話し中の音を聞きながら、小林美登里は矢崎家のリビングのソファに座って呆然としていた。矢崎政氏と矢崎弘の表情も非常に険しかった。
矢崎弘は目を細め、不気味な表情を浮かべた。「矢崎粟は羽が硬くなったようだな......彼女がこうも親族の情を顧みないのなら、私が冷酷になっても文句は言えないだろう」
次男がそう言うのを聞いて、小林美登里はグラスを握る手に力が入った。「彼女は......弘、矢崎粟はあなたの妹よ。あまり極端なことはしないで」
彼女は本来、矢崎弘に矢崎粟のことを気にしないでほしいと言いたかったが、矢崎美緒のことを思い出し、結局その言葉を口にすることができなかった。
矢崎弘は頷いた。「母さん、安心して。私にはわかっています」
もし兄妹の情がなければ、彼はここまで我慢せずにとっくに非常手段を取っていただろう。今回本気を出せば、矢崎粟がいい仕事を得られるはずがないと確信していた。