「貧しい生活から贅沢な生活に移るのは易しいが、贅沢な生活から質素な生活に移るのは難しい」という諺があるように、彼女は十数年間矢崎家の娘として過ごし、お嬢様の生活に慣れ親しんでいたため、裕福な生活を簡単に手放したくなかった。
そのため、矢崎粟が家に戻ってきた後、家族と二人きりになる度に、彼女は遠回しに矢崎粟の悪口を言い、彼女の身分を奪うだけでなく、自分をいじめようとしているという考えを植え付けていった。
一年以上の努力の結果、長男以外の家族全員が、その考えを深く心に刻み込んでいった。
矢崎粟がいる時に何か問題が起きると、それが矢崎粟の過ちであるかどうかに関係なく、両親と兄たちは全ての責任を矢崎粟に押し付けた。
時が経つにつれ、彼女が何気なく矢崎粟の持ち物が欲しいと漏らすだけで、矢崎家の者たちは進んで矢崎粟からそれを奪い取って彼女に渡すようになった。