082 執着する

「今すぐ矢崎粟に電話して帰ってこさせます!」小林美登里は振り返りもせずに家を出て行く長男を見つめながら、胸の中の怒りがさらに燃え上がった。

「お母さん、落ち着いて。今、粟は家族との関係を絶っているから、お母さんの言うことを聞くとは限らないよ」矢崎弘は胸を激しく上下させながら怒る小林美登里を支えて座らせた。

小林美登里は次男が差し出したお茶を一口飲んで、少し落ち着きを取り戻したものの、まだ矢崎粟に対して非常に不満を感じていた。「美緒は小さい頃から私が甘やかして育てたのよ。この番組のために料理を習ったり、家事をしたりするのは、彼女にとってはとても大変なことなのに、粟はいつも美緒を攻撃ばかりしているわ。私の心が痛むわ」

小林美登里は不甲斐なく次男の矢崎弘の手を掴んで、「粟は以前、私のことをとても気にかけてくれて、毎日薬膳を作って体調を整えてくれたわ。今回、私が体調が悪くて彼女に会いたいと言えば、きっと心が軟化して帰ってくるはずよ。そうしたら、私たちは彼女を撮影現場に戻さないように引き止めれば、美緒と若菜が完璧に番組を収録できて、イメージも挽回できるかもしれないわ!」

「それは悪くない方法かもしれませんね、試してみる価値はあります」母親のこの考えに対して、矢崎弘は実行可能だと思った。最悪の場合、後で紫音に粟への良い仕事で補償してもらえばいい。

矢崎家の四男の矢崎政氏も声を上げた。「その時、粟が大人しく戻ってくれば、新しいドラマの女二号の役を彼女にあげよう」

なぜ女一号ではないのかというと、もちろん女一号は最愛の美緒のために取っておくからだ。

二人の息子の支持を得た小林美登里は喜んですぐに矢崎粟に電話をかけようとしたが、電話の向こうで電源が切れているというメッセージを聞いて、番組スタッフが出演者全員の携帯電話を預かっていることを思い出した。

小林美登里は急いでディレクターに電話をかけようとしたが、矢崎弘に夜が遅いという理由で止められ、明日の朝まで待つように言われた。

小林美登里は焦っていたが、矢崎美緒が撮影現場で少しでも過ごしやすくなるように、我慢して明日ディレクターに電話することにした。

翌朝早く、番組の撮影が始まったばかりの時、ディレクターは小林美登里からの電話を受け取り、その後、朝食を作っていた矢崎粟が呼ばれた。