099 よくやった

「林監督、話しづらいのですか?」矢崎泰は林監督の躊躇する様子を見て、優しく気まずさを和らげようと声をかけた。「もし本当に言いにくいことでしたら、私に話さなくても構いませんよ。」

林監督は矢崎泰のそんな丁寧な態度を聞いて、心の中の不安がさらに強くなり、決心して言った。「矢崎社長、先ほどカメラマンに矢崎若菜と矢崎美緒の様子を生配信するように指示したんです。」

矢崎泰はそれを聞いても怒るどころか、むしろ微笑んで言った。「生配信は真実を伝えるものですからね。林監督、私が怒るんじゃないかと心配する必要はありませんよ。彼らはもう大人なんですから、自分の行動に責任を持つべきです。」

矢崎泰の怒りを覚悟していた林監督は呆然とした。「...これは、矢崎社長はお怒りではないんですか?」

矢崎若菜はあなたの実の弟なのに、番組スタッフの仕掛けた罠にはまった弟のことで、どうして少しも怒る様子がないのか?それどころか、言葉の端々に他人の不幸を喜ぶような意味が感じられるのは?

矢崎泰は林監督が自分のやり方に多くの疑問を持っていることを知っていたが、説明するつもりはなかった。

たとえ矢崎美緒をどれほど嫌っていても、愚かな弟の矢崎若菜をどれほど軽蔑していても、彼はまだ矢崎グループの社長なのだから、はっきりと言えないことがあるのだ。

「投資を100万円追加します。」矢崎泰は林監督の肩を軽く叩いた。

矢崎泰が部屋を出た後、同じく彼の太っ腹ぶりに感心していた副監督が、呆然としている林監督の肩を叩いて我に返らせた。

「林さん、ぼーっとしている場合じゃありませんよ。この200万円の大金をどう使うか考えましょう。」副監督はすでに次回の番組の企画を考え始めていた。「この予算があれば、次回は今のように節約する必要もないし、新しいことも試せるかもしれません。」

林監督は我に返ると、容赦なく副監督の夢想を打ち砕いた。「考えるのはやめておけ。この金の使い道は上の意向か、矢崎粟の意向を聞かないと...」

「やっぱり林さんは分かってますね。」副監督はため息をついた。

林監督も副監督も分かっていた。矢崎泰が二度も大金を投資する気になったのは、完全に妹の矢崎粟の面子を立てるためで、彼女がスタッフの中で少しでも居心地よく過ごせることを願ってのことだった。

矢崎家。