矢崎弘の心の中でどのような大きな変化が起きているのか、矢崎粟は気にしたくなかった。今は自分のスタジオを立ち上げることだけに専念したかった。
「どうしたの、粟?」矢崎泰は花のように笑顔の妹を見て、なぜそんなに嬉しそうなのか分からなかった。
矢崎粟は矢崎弘の先ほどの異常な行動について彼に話した。
「彼の言う通りだよ。信頼できる会社と契約を結ぶ方が、君の発展にとって確かに便利だし、ゼロからの起業の苦労もない」矢崎泰は公平な評価を下した。「でも、自分でスタジオを開けば、社長として行動の自由度も高くなるだろうね」
矢崎粟はうなずいた。「私もそう思います。でも、矢崎弘がこんなに寛大なら、もう少し太っ腹になって何人か人をくれてもいいんじゃないかしら」
矢崎泰は彼女の狡猾な目つきを見て、笑いながら尋ねた。「どうやら我が粟には計画があるようだね。お兄さんにも聞かせてもらえるかな?」
「もちろんです」矢崎粟は突然思いついたアイデアを話し始めた。「紫音エンターテインメントから引き抜きをしたいんです」
矢崎泰は少し驚き、矢崎粟のこのアイデアに興味を示した。「誰を引き抜きたいの?紫音のタレントを引き抜くのは簡単じゃないよ」
彼の知る限り、紫音エンターテインメントは商業価値の高いタレントには非常に良い待遇を提供しており、同様に契約も厳しいものだった。
彼女がタレントを引き抜こうとしても簡単ではないだろう。無名の新しいスタジオに移籍するために、巨額の違約金リスクを冒すタレントはいないはずだ。
矢崎粟は首を振った。「紫音のタレントを引き抜く計画はありません。私が引き抜きたいのは、紫音の運営ディレクターの一人と、彼の下にいる運営チーム全体です」
彼女は今の自分にはタレントを説得できる条件がないことをよく分かっていた。しかし、紫音エンターテインメント社の一般社員は別だった。
紫音は資金と方針がタレントに大きく偏っているため、社内の従業員の待遇は当然良くなかった。従業員に良い待遇を提供したくても、財務部門に余分な予算がないと理解することもできた。
矢崎泰は彼女の話を聞いて、すぐに一人の人物を思い浮かべた。「もしかして、紫音の元運営ディレクター、森村博人のことか?」