矢崎粟のスタジオはすぐに軌道に乗り、新人や契約期間が満了して前の事務所に残りたくないタレントたちから次々と履歴書が届いていた。
矢崎粟は最近、山積みの履歴書の中に埋もれており、希望に合うタレントを早く見つけるため、スタジオを出るのがいつも遅くなっていた。
「社長、これをご覧ください」安藤綾の件が解決した後、青木月子は矢崎粟の元に戻って仕事を続けていた。
矢崎粟は彼が渡してきた履歴書を受け取り、一目見ただけで履歴書に貼られた写真に目が釘付けになった。「この人は矢崎美緒とどういう関係?」
写真の人物の顔立ちは矢崎美緒と五分通り似ており、特に鼻は全く同じ型から作られたかのようだった。
「昨日見かけた時点で既に身辺調査をさせましたが、田中凛という女性で、矢崎美緒とは何の関係もありません」青木月子は首を振った。
矢崎粟は気づかれないように眉を少し上げた。「今月のボーナスを倍にする」
矢崎粟は矢崎美緒のことをよく知っていた。もし田中凛が本当に彼女と血縁関係があるなら、絶対に他人の前に現れることを許さないはずだ。
しかし矢崎粟は矢崎美緒のすっぴん写真と比較した後、彼女とこの田中凛には必ず何かしらの関係があると見抜いた。
矢崎粟は微笑んで、青木月子に指示した。「田中凛に明日朝八時に面接に来るよう伝えて。私が直接面接する」
スタジオが有名になってから、矢崎粟は俳優やタレントの発掘だけを担当し、面接は現在仕事のない男性タレントの澤兼弘に任せていた。
青木月子は心の中で驚いたが、余計なことは言わず、うなずいて田中凛に面接の連絡に向かった。
面接の通知を受けた田中凛は興奮のあまり一晩中眠れず、翌日はさらに早くスタジオに到着して面接を待っていた。
矢崎粟がスタジオに到着すると、田中凛が一時間も早く来ているという話を聞き、彼女への好感度が一気に上がった。
小会議室で、矢崎粟は赤い唇を開いた。「田中凛さん、帝都芸術学院演技学科卒業生、普段の空き時間は動物保護協会でボランティアをしているそうですね」
田中凛がまだ自己紹介を思い出そうとしている時、矢崎粟が突然声を出したため、反射的に大きな声で「はい!」と答えた。
矢崎粟は彼女の様子に笑みを浮かべ、台本を渡して、その中の一部分を指さしながら言った。「十分間あげます」