345 矢崎粟への負い目

矢崎政氏は話を聞いて呆然としていた。

母親がこのように考えていたなんて信じられなかった。すべての責任を矢崎粟に押し付けていたのだ。

矢崎政氏は一瞬固まり、思わず口走った。「お母さん、どうして粟にそんなに恨みを持っているの?本当に是非をわきまえていないね。おじいちゃんとおばあちゃんが怒って出て行ったのも当然だよ!」

小林美登里は即座に怒り出し、矢崎政氏の背中を平手打ちしながら怒鳴った。「あなたも矢崎粟に毒されたのね。反骨精神を持って、目上の人を責めるようになったのかしら?」

彼女に口答えすることは、不孝なことだった!

矢崎政氏は痛みと戸惑いを感じながら、「お母さん、最近本当に頑固になったね。何を言っても聞く耳を持たず、自分の考えだけが正しいと思っている。お父さんの言う通り、矢野夫人との付き合いを控えるべきだよ。」

今や母親の粟に対する偏見はますます深まっており、それには矢野夫人の陰での扇動が関係していないはずがなかった。

そう言うと、矢崎政氏はその場を立ち去った。

その場に残された小林美登里は怒りのあまり、近くのテーブルを力いっぱい叩いた。

矢崎政氏はホテルを飛び出し、スタッフの指示に従って矢崎粟たち三人の方向へ追いかけていった。

矢野常が尋ねた。「おばさんの方は上手く行きましたか?」

矢崎政氏は首を振った。彼は黙って歩きながら、自分の気持ちを落ち着かせようとしていた。

母親に何度も叩かれ、心の中では悔しさがこみ上げていたが、今は何よりもこの問題をどう処理するかが重要だった。

矢崎政氏は少し考えてから、矢野常をカメラの死角に引っ張って行き、やっと口を開いた。「常さん、最近お母様とおばさんは連絡を取り合っていますか?」

矢野常は不思議そうに「どうしたんですか?」と聞いた。

なぜ突然母親の話題が出てきたのだろう。

矢崎政氏は少し考えてから言った。「父から聞いたんですが、最近おばさんと母が仲良くなって、よく一緒に買い物に行くみたいです。」

矢野常は頷いた。「そうみたいですね。」

彼もあまり気にしていなかったが、SNSで母親が二人で買い物をしている写真を投稿しているのを見たことがあった。

矢崎政氏は躊躇いながらも話し始めた。「粟が家を出て行ってから、母は粟に対して罪悪感があって、償いたいと思っていました。」