矢崎正宗はため息をついた。「そうだな。」
妻は元々面子を重んじる人だったが、矢崎粟に何度も面子を潰され、さらに本家に呼び出されて叱責を受けた。
彼女が矢崎粟に不満を持っているのは当然だ。
矢崎粟は提案した。「彼女の状態からすると、検査を受けさせて、体内に薬物が残っていないか確認したほうがいいと思います。そうすれば矢野夫人の本性も分かるでしょう。」
小林美登里が真相を知れば、必ず澤蘭子に問い詰めるはずだ。
澤蘭子は否定するだろうし、二人は言い争いになるだろう。さらに小林美登里は感情が不安定なので、二人は喧嘩になるかもしれない。
そうなれば、面白い展開になるだろう。
矢崎正宗は感謝の表情で矢崎粟を見つめた。「分かった。ありがとう。」
やはり実の娘は頼りになる。
これからは小林美登里をよく見張って、矢野夫人との付き合いを禁止しなければならない。
そうしないと、どんな問題が起きるか分からない。
すぐに馬車は道家協会の門前に到着し、矢崎粟が先に降りた。
藤田川は車から降りると笑顔で誘った。「まだ早いですし、私の所でお茶でもいかがですか?」
矢崎粟は軽く笑った。「もう隠す気もないんですね?」
もし彼女が藤田川について行けば、背後の人物は必ず藤田川が呪術を解いたと気付くだろう。
藤田川は扇子を取り出して二、三回あおいだ。「もう隠せないでしょう。」
澤蘭子が入ってきた時の一瞥で、藤田川は既に感じ取っていた。相手は自分を探しに来たのだと。
しかし、彼はそれほど気にしていなかった。
相手が知ったのなら、もう隠す必要もない。
もし矢崎粟の盾となって、相手に中華街での警戒を促すことができれば、それもまた良いことだ。
さらに矢崎粟は彼の自由を取り戻す手助けができる。藤田川は矢崎粟に対してより一層の愛護の念を抱いた。
矢崎粟は理解したように目を輝かせた。「そうですね!」
彼女でさえ澤蘭子が情報を探っていることに気付いたのだから、師匠が知らないはずがない。
師匠が公に彼女を守ろうとするなら、彼女も当然断る理由はない。
二人は一緒に歩いて、藤田川の中庭に入った。
今夜の月明かりは素晴らしかった。
中庭では、暖かな黄色い蝋燭の光が揺らめき、より一層居心地の良い雰囲気を醸し出していた。