森田廣はその場で固まったまましばらく立っていたが、彼も二階へ向かって歩き出した。小林瑞貴を監視して、証拠を勝手に公開させないようにするためだった。
吉村久真子の顔が痛かったが、心はもっと痛かった。
森田廣が殴られても矢野朱里をかばうなんて思いもよらず、彼女の心は嫉妬で燃えていた。
彼女が森田廣と過ごしてきた時間でも、まだ彼の心を完全に掴めていないのだろうか?
呪われろ、矢野朱里!
吉村久真子も頬を押さえながら後を追い、目には毒々しい嫉妬の色が浮かんでいた。
他の人々も続々と後を追い、この先どうなるのか見届けようとした。
店長は40代の男性で、名前は白川隼といった。
彼は数人が階段を上がっていくのを見て、理解したような目つきをした。
彼らの来意を聞いた後、店長は一行を3階の監視室に案内し、監視カメラの映像を取り出すよう指示した。
映像が再生されると、白川隼は尋ねた。「この監視映像が必要なんですよね?コピーをお渡ししましょうか?」彼の目には、かすかな笑みが浮かんでいた。
小林瑞貴は映像の内容を見終わると、信じられない様子で前に進み出て、モニターに顔を近づけんばかりだった。
後ろについてきた数人も、皆一様に驚愕の表情を浮かべていた。
矢崎美緒は驚いて画面を見つめ、呟くように言った。「ありえない、絶対にありえない。なぜ監視カメラに矢崎粟が殴る場面が映っていないの?」
誰かが震える声で言った。「もしかして、幽霊でも見たのか?」
録画には彼らが酒を飲んでいる場面があり、その後矢崎粟と矢野朱里が二階から降りて、バーの出口へ向かって歩いていく様子が映っているだけだった。
監視カメラの映像では、時間が一秒一秒と進んでいくだけで、何の異常も見られなかった。
小林瑞貴は眉をひそめ、「何が幽霊だ!この監視映像は明らかに誰かが編集し直したんだ。」
このスピードと効率から見て、間違いなくプロの仕業だ。
彼は白川隼に向かって尋ねた。「店の人間は、この監視カメラに手を加えていませんよね?」
白川隼は頷き、断言した。「さっき見たとおり、この監視室は今夜私が初めて開けたんです。鍵は私のポケットにありましたから、店の誰かが監視映像を取得することは不可能です。」
小林瑞貴はそれを聞いて、さらに挫折感を強めた。「くそっ、一体どこに問題があるんだ!」