484 言葉もない

隣にいた男が思わず口を開いた。「あなたたちの顔には確かに跡がないですね。でも森田若様と小林若様の方が深刻そうですけど。」

この二人の女性は全く分かっていない。

二人の若様がこんなに重傷を負っているのに、自分の顔のことばかり気にしているなんて。

傍らの小林瑞貴は森田廣の方を見て、彼の目が少しぼんやりしているのに気づいた。「廣兄、どうして黙っているんだ?私が言ったでしょう、矢野朱里というあの虎女を怒らせるなって。彼女は矢崎粟まで狂わせてしまったんだ。」

森田廣はその言葉を聞いてようやく我に返った。意識が戻ると、胸と腹が特に痛むのを感じた。

彼の足は矢野朱里に踏まれ、今も刺すように痛んでいた。

森田廣は魂が抜けたように言った。「彼女は本当に容赦なく私を殴るつもりだったんだな。」